研究課題/領域番号 |
25890011
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉見 一人 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50709813)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | ラット / ゲノム編集 / CRISPR/Cas / チロシナーゼ |
研究概要 |
近年、人工ヌクレアーゼZFN/TALENを用いて遺伝子を自由に改変するゲノム編集技術が開発され、これまでES細胞を用いた遺伝子改変が困難であった様々な実験動物で遺伝子を改変する事が可能になった。代表的な実験哺乳動物であるラットにおいて、迅速かつ正確に、低コストで遺伝子改変が可能になることは、未知遺伝子の生理的機能の解明、ヒト疾患モデルの開発に大きく寄与する。2013年、新たなゲノム編集技術として報告されたCRISPR/Cas9は、一本鎖のRNA(gRNA)が標的配列を認識し、Cas9ヌクレアーゼを誘導して標的配列に二本鎖切断を導入することで、ZFN/TALENと同様に自由なゲノム編集を可能にする。 本研究課題では、新規遺伝子改変技術CRISPR/Cas9を利用した効率的なノックアウトラット作製システムの構築を行う。さらにトリプルノックアウトラットを作製することで、複数の遺伝子を同時に破壊することができる多重遺伝子ノックアウトシステムの構築を目指している。 本年度は、チロシナーゼ(Tyr)遺伝子を対象にgRNAを設計し、ノックアウトラットの作製を試みた。Tyr遺伝子はメラニン色素の合成に関わる遺伝子で、変異あるいは欠損すると体毛や皮膚が白くなる色素欠乏症、いわゆるアルビノになることが知られている。作製したgRNA発現プラスミドとCas9発現プラスミドをラット繊維芽細胞に導入することで、数から数十bpの遺伝子変異を確認した。 切断が確認されたgRNAとCas9 mRNAを受精卵へ導入することで、実際にTyr遺伝子ノックアウトラットの作製に成功した。得られた全ての変異が子孫へ安定的に伝達されることも確認した。また、ゲノム上の類似配列を切断するオフターゲットの影響についても、すべての変異個体で観察されなかった。以上から、CRISPR/Casを用いた効率的かつ正確なノックアウトラット作製システムを構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ラットに最適なDNA切断効率を示すCRISPR/Cas9の探索を行い、効率が確認されたCRISPR/Cas9を用いてTyr遺伝子のノックアウトラットを作製することを目指した。実際に複数のgRNAおよびCas9についてラット繊維芽細胞を用いて確認し、ラットに対して効率的に変異を導入することが確認できた。さらには、Tyr遺伝子のノックアウトラットを作製に成功し、変異のジャームライントランスミッション、オフターゲットの影響についても確認することができた。以上より、本年度に設定した目標を全て達成しており、順調に成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、この構築した作製基盤を用いてトリプルノックアウトラットを作製し、複数の遺伝子を同時に破壊する多重遺伝子ノックアウトシステムを構築する。対象遺伝子としては、変異導入が確認された毛色遺伝子Tyrに加え、他の毛色関連遺伝子であるAsip遺伝子、Kit遺伝子に焦点を当てる。ラットでは、Asip遺伝子を欠損することでノンアグーチ色に、Kit遺伝子にトランスポゾンが挿入されることで頭巾斑を示すことが知られている。 さらに、CRISPR/Cas9の変異導入効率を高めることで、より効率的に多重遺伝子ノックアウトラットを作製することを目指す。これまでのCas9に対して、核移行シグナルの付加、配列の改良等の最適化を行い、ラット繊維芽細胞およびラット受精卵を用いてよりDNA切断効率の高いCas9を選抜することで、これを利用した多重遺伝子ノックアウトラットの作製を行う。
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