研究概要 |
成体脳の脳室下帯では、生涯を通じて新生ニューロンが産生され、嗅球へと移動して神経回路へ組み込まれる。これまでに研究代表者は、二光子顕微鏡を用いた生体イメージング法を確立し、嗅球新生ニューロンの成熟場所を決定するメカニズムを明らかにした(Sawada et al., J. Neurosci., 2011)。この結果にもとづき現在は、新生ニューロンを嗅球内で適切に配置するメカニズムを研究しており、Sema3E-PlexinD1による制御の可能性を見いだしている。本研究では、Sema3E-PlexinD1シグナルの新生ニューロンにおける役割を解明し、新生ニューロンの嗅球内配置機構を明らかにすることを目的とした。 新生ニューロンは分化・成熟過程でleading processから分岐したlateral processを形成する。Lateral processの役割を解析するため、スライス培養法および固定組織を用いて観察した結果、嗅球に到着した新生ニューロンがアクチンを豊富に含むlateral processを形成し、形態が複雑になるにつれて移動が遅くなることを明らかにした。また、二光子顕微鏡下で新生ニューロンの分化・成熟過程を観察するため、細胞移植およびエレクトロポレーションを用いた新生ニューロンの形態観察法を確立した。 Lateral process形成の分子メカニズムについて、Sema3Eの効果とアクチン重合の関係を調べるため、EGFP-UtrCHを新生ニューロンに導入し経時観察を行った。その結果、Sema3Eは新生ニューロンのアクチン重合を抑制することが示唆された。また、lateral process形成に重要な分子を新生ニューロンのFRETイメージングで探索し、アクチン制御因子Rac1を同定した。このRac1の活性化はSema3E添加で抑制されることを明らかにした。
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