研究課題/領域番号 |
25890024
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田尾 賢太郎 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (10708481)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 実験系確立 |
研究概要 |
まず、野生型C57NL/6Jマウスをもちいて、頭部固定条件の覚醒マウスが1時間以内で学習可能な、遅延あり古典的条件づけ課題の実験条件を検討した。その結果、2種類の音刺激(10kHz純音またはホワイトノイズ)をもちいた課題において、約半数のマウスが報酬と連合された刺激に対して有意に高い反応を示すような実験系の確立に成功した。つづいて、ドパミン細胞特異的にチャネルロドプシンを発現するDAT-cre/Ai32またはTH-cre/Ai32マウスの腹側被蓋野よりレーザーダイオード一体型シリコンプローブをもちいて多細胞同時記録を実施する実験条件を検討した。しかしながら、光感受性細胞からの記録に成功する確率は非常に低く、現在ChR2の導入方法を遺伝子改変マウスではなくウイルス投与に変更した系でさらなる検討を実施している。 そして、この学習課題をより内側前頭前皮質 (mPFC) 依存的なものにするための実験条件を検討した。その結果、上述の行動試験系を発展させ、より高次の認知機能を必要とする連合学習課題を訓練することに成功した。これは、報酬が提示される飲水ポートを2本設置し、「音刺激1-右ポートより報酬」「音刺激2-左ポートより報酬」という連合性を学習させる知覚弁別課題である。この課題は刺激とポートの関係性を変更することで行動選択に可塑性を誘導する (set shifting) ことも可能であり、本研究課題において理想的な行動試験系である。さらに、このような知覚弁別課題およびset shifting課題を遂行中のマウス両側mPFC より多細胞同時記録を実施し、刺激あるいは行動に対して選択的な応答を示す神経活動を記録することに成功した。平成26年度はこれらの実験系を活用して、研究を遂行していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頭部固定条件の覚醒マウスをもちいた行動試験系の確立に成功し、さらにそれを認知課題にまで発展させたことは当初の計画以上の進展であり、評価に値する。また、両側mPFCやmPFC-海馬など、複数領域からの多細胞同時記録を安定的に実施可能になった点も順調に進展している。しかしながら、光感受性細胞からの神経活動記録については、いまだ成功率が非常に低い状態であり、実験系の改善を要する。ウイルス投与により皮質領域にChR2を発現させた状態での細胞同定には成功していることから、問題は標的領域であるVTAの深度、あるいは遺伝子改変マウスにおけるChR2発現であると推察される。これらを改善するために、実験手技のさらなる向上、およびウイルス投与による光感受性タンパク質の導入を検討していく。 また、投射経路特異的な細胞標識については、研究計画に挙げたWGA-creによる手法の確立には失敗したものの、現在代替案としてヘルペス単純ウイルス (Herpes simplex virus: HSV) をもちいた実験を検討しており、発現細胞数は少ないながら、mPFCに投射するドパミン細胞を特異的に標識することに成功している。以上を総合的に考慮すると、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究により、頭部固定状態の覚醒マウスにおいて、2種類の連合学習課題を訓練することに成功した。今年度はそれらを活用して、以下の要領で研究を実施する予定である。 1. 複数の音刺激と単一の報酬ポートをもちいた連合学習:今年度はこの実験系に逆行性感染ウイルスであるヘルペス単純ウイルス (Herpes simplex virus: HSV) を導入し、投射先特異的にドパミン細胞を標識したうえで神経活動を記録する。具体的には、DAT-creあるいはTH-IRES-creマウスのmPFCまたは側坐核 (nucleus accumbens: NAc) にhEF1α-LS1L-hCHR2(H134R)-mCherryを投与し、逆行性に標識されたドパミン細胞を光遺伝学的に導入したうえで、この連合学習が成立する過程の複数時点において、シリコンプローブにより神経活動を取得する。 2. 複数の音刺激と複数の報酬ポートをもちいた弁別学習:この学習課題を応用したset shifting課題にはmPFCおよび同領域におけるドパミンが必須であることが報告されているため、その過程においてmPFCおよびVTAの神経活動を記録、およびmPFCにおけるドパミンを光遺伝学的に制御することで行動が変化する可能性を検証する。最後に、ASDモデルマウスをもちいて上記の課題を実施する。
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