研究概要 |
転写因子NFkBは細胞運命決定に関与する遺伝子の発現を調節し、NFkBの機能不全は炎症性疾患やがんなど、さまざまな疾患に関与していることが報告されている。NFkBシグナル制御の理解は細胞運命、疾患メカニズムのコントロールにつながる。NFkB活性のダイナミクスは核内のNFkB活性が振動すること、細胞の刺激量に対してNFkB活性のオンとオフを2値的に切り替えるスイッチライクな応答を示す特徴がある。これまでのNFkBシグナル伝達システムのモデルは振動もしくはスイッチライク応答どちらか一方のダイナミクスを示すモデルだった。本年度は既存モデルの拡張を行い、どちらのダイナミクスも再現できるモデルの構築に成功した。本モデルはCARMA1, Bcl10, Malt1, TAK1, IKKβ, NFkB, IkB, A20で構成される。数学モデルの規模は48の微分方程式と202のパラメタから成る。このモデルは2つのポジティブフィードバックとネガティブフィードバックで制御されている。ポジティブフィードバックはスイッチライク応答を制御しており(Shinohara, Science, 2014)、ネガティブフィードバックは振動を制御している(Hoffmannn, Science, 2002)。2つのポジティブフィードバックはスイッチライク応答に必須なものと、その応答のsteepnessを促進させるものという役割の違いが見られた。これらの違いを理解することは、例えばドラッグターゲットとして考えた場合、どちらのフィードバックで活性調節すべきかを検討する材料となる。システム全体としてその活性のバランスがどのように変わるかを今後、検討していく必要がある。
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