自然界では、植物の受ける光環境は晴れ/曇りという天候の影響を受けるし、晴れの日であっても植物体同士の相互被陰によって一日を通して常に変動している。強光ストレスに対する光合成の応答については多くの研究者が着目して研究を行っているが、弱光に対する光合成の応答に関してはまだまだ不明な点が多い。本申請課題では、“弱光環境”に注目して、サイクリック電子伝達経路の新たな生理学的役割を解明することを目的とした。 野生イネ (Oryza sativa L.)とNDH欠損変異体イネを異なる二つの光強度(弱光: 200 μmol m-2 s-1、強光: 800 μmol m-2 s-1)において栽培した。その結果、強光栽培時には、野生体と変異体の二種間で成長量に差は無かったが、弱光栽培時には、変異体において成長量が有意に低下することが分かった。詳細な光合成解析の結果、変異体では、弱光下において光化学系Iサイクリック電子伝達活性が減少し、その結果として、炭酸固定速度の減少、および、植物成長の低下を引き起こしていることが明らかとなった。 サイクリック電子伝達経路は強光などの酸化ストレス環境で重要だと信じられてきており、これまでに弱光環境におけるサイクリック電子伝達経路の重要性を議論した研究例は無い。申請者のデータは、従来の通説とは異なり、サイクリック電子伝達経路が弱光下における光合成の最適化に重要な役割を果たすことを示した。これらの研究成果は基礎研究としての高い成果に加えて、光合成効率向上のための技術基盤作りに確実に貢献すると考えられる。
|