感覚受容体の応答特性(「何を」「どれくらいの感度で」受容するか)がチューニングされるメカニズムを明らかにするために、苦味受容体をモデルとして研究を行っている。 今年度は昨年度に続き、苦味受容体の特性に影響を与えるアミノ酸残基を同定するために、種間でアミノ酸配列が異なる新世界ザルの苦味受容体TAS2R1およびTAS2R4に注目して実験を行った。具体的には、マーモセット・オマキザル・ヨザル・クモザル・ホエザルのゲノムDNAからクローニングされた苦味受容体TAS2R1およびTAS2R4をHEK293T細胞に発現させ、様々な苦味物質に対する応答をカルシウムイメージングにより測定した。その結果、TAS2R1の樟脳に対する応答についてはヨザルのものが、TAS2R4のコルヒチンに対する応答についてはマーモセットのものが、他の種と比較して感受性が高いことが明らかとなった。続いて、応答の種間差が苦味受容体の分子進化過程のどの段階で生じたかを明らかにするために、新世界ザルのTAS2R1およびTAS2R4の分子系統樹解析から推定された各分岐点の祖先配列を持った苦味受容体を細胞に発現させ応答を測定した。その結果、TAS2R1の感受性は祖先型からヨザルに至る系統において、TAS2R4は祖先型からマーモセットに至る系統において上昇したことが明らかとなり、また高い感受性の獲得に寄与したアミノ酸残基が同定された。 今年度はさらに、苦味受容体のもう一つの感度チューニングメカニズムとして「GPCRキナーゼ(GRK)によるリン酸化効率」が機能している可能性を検討したが、苦味受容体を発現する味細胞に共発現するGRKを同定することができなかった。
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