本研究課題の目的は、植物の葉老化において大きなイベントの1つである総タンパク質の80%を含有する葉緑体たんぱく質の分解メカニズムの解明である。葉緑体タンパク質の分解メカニズムは不明な点が多い。本課題では、特に地球上でもっとも存在量が多い膜たんぱく質であると言われている葉緑体チラコイド膜に局在するPSIIのアンテナタンパク質に注目し、それが分解しないダイズの突然変異体を解析した。その結果、PsbMの欠損がアンテナタンパク質分解酵素の活性を低下させることによって、アンテナタンパク質および、それが含有するクロロフィルbが長期間保持され、ステイグリーンを保つことが明らかになった。また、タバコを用いてアンテナタンパク質の特異的な分解酵素であるNYC1のRNAi系統において老化誘導時にPSIIのアンテナタンパク質および、クロロフィルbが分解されないことも確認した。同時に、タバコのPsbM欠損系統も作製した。その結果、ダイズと同様の表現型を持つことが確認できた。ダイズのPsbM突然変異体は自然発生的な品種であるのに対し、タバコの系統はバックグラウンドが同一であることから、2つの欠損系統を比較することができ、それらが酷似した表現型を持つことを観察することができた。計画時においては、PSIIのPsb29に注目したが、シロイヌナズナの突然変異体ではイネのような明らかなステイグリーン表現型が観察されなかったことから、他のPSII変異体で且つステイグリーンを示すPsbMに焦点を移した。しかしながら、本課題を遂行する過程で、アンテナタンパク質を含むPSIIの分解には、サブユニットの1つであるPsbMが必須であることが明らかになり、PsbMの欠損がアンテナタンパク質を特異的に分解するプロテアーゼの活性低下に寄与していることを発見した。
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