研究課題/領域番号 |
25891030
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
平野 優 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究員 (80710772)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 中性子構造 |
研究概要 |
鉄硫黄タンパク質において、酸化還元状態の安定化機構を理解することは、生体内で広く見られる電子伝達機構を理解する上で重要な課題とされている。酸化還元状態間の構造変化においては、タンパク質表面の解離性アミノ酸残基のプロトン化状態や水分子の構造変化が重要な役割を果たすと考えられる。そこで、高電位鉄硫黄タンパク質を用い、酸化還元両状態の高分解能中性子構造解析を行うことで、酸化還元状態安定化機構の本質を明らかにする。 平成25年度は、特に酸化型高電位鉄硫黄タンパク質を用い、大型結晶の作製、結晶の重水溶液置換方法の検討、および予備的中性子回折実験を行った。大型結晶の作製は、マクロシーディング法により行い、体積2.3立方ミリメートルの結晶を得ることができた。得られた大型結晶は、重水溶液に段階的に置換することで結晶の劣化を防ぐことができた。大強度陽子加速器施設J-PARCにおいて予備的回折実験を行い、最高で1.17オングストローム分解能の回折点を観測することに成功した。 平成25年度の実施計画では、酸化型高電位鉄硫黄タンパク質の中性子回折データセットを取得し、構造解析を実施する予定であったが、J-PARCにおけるハドロン事故の影響で回折データセット取得には至らなかった。しかし、予備的回折実験から高分解能の回折データセット取得が可能であることが確かめられたので、平成26年度前期に割り当てられた実験期間に回折データセットを取得し、構造解析を完了する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、酸化型高電位鉄硫黄タンパク質を用い、大型結晶の作製、大型結晶の重水溶液と抗凍結溶液への置換方法の検討、中性子回折実験、および構造解析を行う計画であった。 大型結晶の作製においては、体積2.3立方ミリメートルの結晶を作製することに成功し、目標としていた体積1立方ミリを超える結晶の取得を達成した。また大型結晶の重水溶液への置換方法の検討では、段階的に重水溶液に置換することで結晶の劣化を防ぐことができ、研究計画に示した通り回折能への影響を抑えた置換方法を確立した。抗凍結溶液への置換方法の検討では、抗凍結剤として重水素化グリセロールを用い、抗凍結溶液へ大型結晶を段階的に置換することで、凍結した際の氷の生成を抑えることに成功し、結晶の劣化を防ぐ凍結溶液への置換方法を確立した。中性子回折実験においては、J-PARCのBL03(iBIX)ビームラインにおいて予備的回折実験を行い、最高で1.17オングストローム分解能の高分解能の回折点を観測することに成功した。 平成25年度は、J-PARCにおけるハドロン事故の影響で回折データセット取得には至らなかった。そのため、構造解析についても進展はしていない。しかし、予備的回折実験から高分解能の回折データセット取得が可能であることが確かめられた。したがって、研究目的である高電位鉄硫黄タンパク質の高分解能中性子構造解析が実現可能である道筋を立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度のJ-PARCにおけるハドロン事故により行うことの出来なかった酸化型高電位鉄硫黄タンパク質の中性子回折データ収集、構造解析を行う。中性子回折データ収集は、J-PARCの生命科学用ビームライン(BL03)において平成26年度前期に割り当てられたビームタイムにおいて実施する。構造精密化は、タンパク質の中性子構造解析で適用されている中性子回折データとX線回折データを同時に利用する方法で行う。そのために中性子回折データを取得した同一の結晶を用いて、類似の条件でX線回折データ収集も行う。 また、還元型高電位鉄硫黄タンパク質の大型結晶作製、中性子回折データ収集、構造解析も行う。大型結晶作製は、酸化型と同様にマクロシーディング法により行う。還元型の結晶化溶液には還元剤であるdithiothreitol(DTT)を用いる。体積1立方ミリ以上の結晶を成長させるためには少なくとも1ヶ月以上の期間がかかるので、嫌気性チャンバー内で保存する。還元型大型結晶の重水溶液、抗凍結溶液への置換は酸化型と同様に行う。中性子回折実験はJ-PARCで行い、同一の結晶を用いてX線回折実験も行う。構造精密化は、酸化型と同様の方法で行う。 酸化型、還元型の高分解能中性子構造解析から、タンパク質表面の解離性残基のプロトン化状態、水分子の配向などを解析し、酸化還元状態安定化機構を明らかにする。
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