鉄硫黄タンパク質において、酸化還元状態の安定化機構を理解することは、生体内で広く見られる電子伝達機構を理解する上で重要な課題とされている。酸化還元状態間の構造変化においては、タンパク質表面の解離性アミノ酸残基のプロトン化状態や水分子の構造変化が重要な役割を果たすと考えられる。そこで、高電位鉄硫黄タンパク質を用い、酸化還元両状態の高分解能中性子構造解析を行うことで、酸化還元状態安定化機構の本質を明らかにする。 平成26年度は、酸化型高電位鉄硫黄タンパク質を用い、大型結晶の凍結条件の検討、中性子回折データ収集、構造解析を行った。凍結条件の検討では、大型結晶を段階的に重水素化グリセロールを含む抗凍結溶液に置換することで、高分解能回折データ収集が可能な条件を決定した。中性子回折実験は、大強度陽子加速器施設J-PARCにおいて100 Kの低温下で行い、タンパク質として世界最高分解能である1.1オングストローム分解能の回折データセットを取得することに成功した。また中性子データとX線データを相補的に利用した構造精密化を行うため、中性子データを取得した同一結晶を用い、放射光施設Photon FactoryにおいてX線回折実験を行い、0.66オングストローム分解能の回折データセットを取得した。構造精密化の結果、タンパク質表面の解離性アミノ酸残基全てのプロトン化状態を決定することができた。また、タンパク質表面の水分子については、タンパク質と直接水素結合を形成しない水分子についても水素原子を含めた構造を決定することができた。さらに、今回高分解能の回折データが得られたことから、水素原子の結合距離、角度の制約を緩めた構造精密化を実施することが可能となった。その結果、水素原子の結合距離、結合角度について、理想値からのずれを多数観測することに成功した。
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