東日本における温暖化に伴うコメ収量の将来見通しを行った。まず、全球気候モデルによる温暖化シナリオを気象庁・気象研究所で開発された非静力学モデルJMA-NHMで高解像度化し、東日本を10kmメッシュでカバーするデータを作成した。全球気候モデルには、MIROC5(RCP4.5)とMRI-AGCM(SRES A1B)を使用した。次いで、コメ収量の算出には、水稲生育モデルHasegawa/Horie(H/H)モデルを使用した。このモデルは、品種ごとに生育パラメータを変えることで、同じ気象条件を与えた場合における生育差を表現することが可能である。解析期間は、現在気候が1981-2000の20年、将来気候は2081-2099年の19年とした。 H/Hモデルの精度検証のため、現在気候を対象にアメダスによる気象データでH/Hモデルを駆動した。栽培品種は、現在それぞれの作柄表示地帯で最大の作付面積を占めるものとした。算出された収量は、観測の収量に対して2%ほどのバイアスに収まり、コメ収量の推定においてH/Hモデルは使用可能であると判断した。 構築した高解像度の温暖化シナリオを入力し、温暖化に伴う収量の変化を推定した。主に二酸化炭素の増加による施肥効果によって、東日本の多くの地域で増収が期待され(領域平均で17%増)、特に本州の標高の高い地域や北海道といった現在冷涼な地域での増収率が高かった。 より高い収量を確保するため、各地点で現行品種よりも高収量を達成しうる品種の可能性を検討した。現在それぞれの地域で栽培されている品種よりも、南で栽培されている品種の方が高い収量を達成する地点が、本州の平野部を中心に広く存在した。こうした地域では高温障害が顕在化するため、高収量達成の面からは、現行品種の維持よりも耐高温品種の導入がより有効な適応策となりうることが明らかとなった。
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