研究実績の概要 |
次世代シーケンサーや塩基配列解析ツールの整備に伴い、植物の塩基配列情報は容易に入手可能となっている。しかし、塩基配列から予測される遺伝子の多くは、未だにその機能が不明なものが多い。遺伝子の機能を解析する方法の一つに、突然変異体の利用がある。モデル作物であるイネでは、トランスポゾンを利用したTos17パネルが整備されているが、イネ全遺伝子について変異が飽和しておらず改良が必要とされた。そこで我々は、高変異率を有するイネ突然変異集団の作出を目指し、新たなアプローチ法として、植物が本来有するDNA修復機構に着目した。ガンマ線照射で生じるDNAの二本鎖切断は、Ku70、Ku80、DNA Ligase IV, XRCC4などの制御により修復されることが知られている。本研究では、DNA修復機構関連遺伝子の突然変異体を単離し、得られた変異系統についてガンマ線に対する感受性調査を行った。 TILLING法を用いてKu70とKu80の突然変異体の探索を行ったところ、両遺伝子に対してそれぞれ1系統ずつ非同義置換を有する変異系統が得られた。M1個体の初期成育の調査の結果、野生型と比べてKu70とKu80変異系統では初期成長の抑制が認められた。圃場での形態調査では、出穂や稈長に関する形態異常が、野生型で7個体(1.09%)、Ku70変異系統で4個体(0.58%)、Ku80変異系統で13個体(1.80%)観察された。TILLING法を用いてDNAの変異を解析したところ、WTは5.3 Mbp、ku70は17.0 Mbp、ku80は9.0 Mbpに1箇所の変異が検出された。初期成育量と圃場における形態調査の結果より、当初の予想通り人為的にDNA修復機能を抑制することによって、高変異率を有するイネ突然変異集団の作出が可能であることが示された。
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