研究課題/領域番号 |
25892011
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
知久 和寛 新潟大学, 自然科学系, 科学技術振興研究員 (30711618)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 酵素 / 糖鎖 / 微生物 |
研究概要 |
本研究は、様々な生物の細胞表層に展開する複合糖鎖及びリポ多糖を対象とした加リン酸分解酵素(ホスホリラーゼ)依存型新規代謝機構の全貌を明らかにするものである。 複合糖鎖及びリポ多糖の代謝時の鍵タンパク質であるβ-1,4-マンノシル-N-アセチルグルコサミンホスホリラーゼと1,2-β-オリゴマンナンホスホリラーゼの反応速度論的解析を、酵素反応中のα-マンノース1-リン酸(Man1P)の遊離量を定量する酵素比色法を用い行った。その成果の一つとして、好熱性細菌Thermoanaerobactor sp. X-514株より見出された二つの1,2-β-オリゴマンナンホスホリラーゼ(Teth514_1789とTeth514_1788)は、1,2-β-オリゴマンナンに対する異なる鎖長特異性を示すことを明らかにした。これら二つの酵素は、生体内に取り込まれた重合度の高い1,2-β-オリゴマンナンの低分子化反応を触媒しMan1Pに導くことで、効率的に代謝するための役割を担っていると考えられる。 更にバイオインフォマティクス手法により当該ホスホリラーゼ遺伝子の周辺タンパク質群を同定した結果、当該ホスホリラーゼ遺伝子は、糖結合タンパク質を含む糖輸送系タンパク質遺伝子群、GDPマンノース合成酵素遺伝子、GDPマンノース:α-マンノシルトランスフェラーゼ遺伝子とともに、細胞表層糖鎖の生合成に向けた遺伝子クラスターを形成していることを見出した。また、糖結合タンパク質の基質である1,2-β-オリゴマンナンを、安価な澱粉を出発原料に1,2-β-オリゴマンナンホスホリラーゼの逆反応を用いることで、収率約28%にて合成することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I)新規β-マンノシドホスホリラーゼの酵素機能の評価 Man1Pの酵素的定量法を用い、複数のβ-1,4-マンノシル-N-アセチルグルコサミンホスホリラーゼと1,2-β-オリゴマンナンホスホリラーゼの動力学的パラメーターを算出した。これらホスホリラーゼの結晶構造解析についても進行中である。同時にこれら酵素を用いた糖結合タンパク質の基質となるβ-1,4-マンノシル-N-アセチルグルコサミンと1,2-β-オリゴマンナンを砂糖や澱粉などを出発原料とした酵素合成系が確立している。 II)新規糖結合タンパク質のβ-マンノシド結合機能の評価 上記ホスホリラーゼ遺伝子の近傍に存在する各種β-マンノシド結合タンパク質遺伝子の大腸菌を用いた生産系が確立されている。現在、I)で調製した基質を用いて、SPRおよびLSPR法を用いた解析を検討中である。 III)複合糖鎖及びリポ多糖構造の解明及び代謝関連タンパク質の同定 平成26年度で予定していたバイオインフォマティクス手法による当該ホスホリラーゼ遺伝子周辺のタンパク質群の解析を先行して行った。その結果、1,2-β-オリゴマンナンの代謝に関わる糖結合タンパク質、ホスホマンノムターゼ、GDPマンノース合成酵素などいくつかの遺伝子を同定した。本年度はこれらタンパク質遺伝子の大腸菌を用いた生産系を構築するとともに、それぞれの酵素活性をin vitroで確認する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、様々な生物の細胞表層糖鎖を対象とした、微生物によるホスホリラーゼ依存型新規代謝機構の全貌を解明することを目的に、研究を推進していく。 β-マンノシドホスホリラーゼを含む糖質関連酵素ファミリーはまだ研究例が少なく、機能未知の酵素が数多く含まれている。同様に、当該ホスホリラーゼ遺伝子を含む遺伝子クラスター内にも機能未知の酵素遺伝子が数多く含まれている。これらタンパク質群の機能を詳細に解析することで、微生物におけるホスホリラーゼ依存型新規代謝機構の機能およびその多様性を提示していく。さらに、β-マンノシドホスホリラーゼやβ-マンノシド結合タンパク質の機能が明らかとなった微生物に対しては、in vitroとメタボローム解析による代謝産物の解析およびプロテオーム解析による代謝関連タンパク質群の発現制御機構の解析を行っていく予定である。 なお、今後は、研究実績に記載した1,2-β-マンナンの代謝機構の解析を中心に進めていく。1,2-β-マンナンは、細菌上のリポ多糖の構成糖として存在するだけでなく、いくらかの病原性真菌では、細胞内外に蓄積する多糖類として知られている。さらに、病原性真菌内の1,2-β-マンナン代謝はヒトに感染するために必要な病原性因子の一つであると考えられている。本申請研究で細菌内の1,2-β-マンナン代謝機構とその制御因子を明らかにし、得られた研究成果を元に病原性真菌における1,2-β-マンナン代謝機構の解析に向けた研究へと繋げていきたい。
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