本研究ではイネの種間雑種で見いだされた顕著な雑種強勢を利用するため、障壁となる現象「雑種不稔」の克服を目指している。アジア栽培イネO.sativaとアフリカ栽培イネO.glaberrimaの種間交雑では得られた雑種は種子不稔を示す。これまでにイネの種間雑種において種子不稔を引き起こす遺伝的要因の一つとして、S1遺伝子が報告されている。S1はヘテロ接合の状態で特異的に作用し、花粉および種子の退化を引き起こす。S1はイネ第6染色体上にマッピングされているが、原因となる遺伝子の同定はできていない。そこで本研究では、S1に着目し、遺伝子機能欠損変異体を単離する。得られた変異体を利用してS1の原因遺伝子の特定を行う。変異体の作出には重イオンビームを用いる。通常、突然変異処理を行うと多くの遺伝子が影響を受けるため、種子稔性が低下した個体が頻繁に生じる。一方、重イオンビームはその軌跡に沿って半径数nm程度の範囲に広がるDNA二本鎖を電離作用により切断するため、切断箇所以外の遺伝子が影響を受けるリスクが低いと考えられている。そのため、本研究においてS1遺伝子のみを欠損させ、種子稔性が上昇する個体をスクリーニングするために適した変異処理であると考えられる。 本年度はS1遺伝子をヘテロ接合で持つ種子を交配により作出し、得られた交配後の種子に重イオンビーム(炭素イオン照射 150Gy LET30)を照射した。重イオンビーム処理後、圃場に植物体を移植し、種子稔性が高い個体を選抜した。選抜した個体はS1遺伝子が欠損した個体である可能性が高い。そこですでに報告されているS1遺伝子候補領域をシークエンスし、変異が生じている箇所を特定した。
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