研究課題/領域番号 |
25893001
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
櫻井 遊 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教 (00707234)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | siRNA / がん / 血管新生阻害療法 / リポソーム / ドラッグデリバリー |
研究概要 |
本研究では、がんの新規治療法確立のために、腫瘍の血管内皮細胞へsiRNAを送達可能なドラッグデリバリーシステムの開発を目的に研究を行っている。これまでにリポソームの内部にsiRNAを内封した構造を有する多機能性エンベロープ型なの構造体 (MEND) の開発を進めており、今回腫瘍の血管内皮細胞を標的するターゲティング素子としてcyclic RGD (cRGD) を用いた。cRGDは腫瘍の血管内皮細胞に高発現しているインテグリンの既知のリガンドである。 始めにこのリガンドの修飾の最適化を培養細胞系で行った。インテグリンを発現している、ヒト臍帯血管内皮細胞 (HUVEC) に対して蛍光標識を施したRGD修飾MEND (RGD-MEND) を添加し、細胞内の蛍光強度を定量した。その結果、リポソームを構成する脂質のうち5 mol%を含むように添加した場合に最も高い細胞内取り込み促進作用が認められた。こうして最適化を行ったRGD-MENDを次にヒト腎細胞がんOS-RC-2細胞を皮下移植することで作成したがんモデルマウスに対して投与を行い、in vivoでのsiRNA送達活性を検証した。担癌マウスとしてsiRNA量で0.75 – 4.0 mg/kgで静脈内より投与し、24 h後の遺伝子発現量を定量的RT-PCR法によって定量した結果、4.0 mg/kgで投与を行ったときに、50%以上の有意な抑制が認められた。 次に、血管内皮細胞成長因子受容体2に対するsiRNAを用いた治療効果の検討を行った。この遺伝子を抑制は腫瘍増殖抑制効果を引き起こすことが報告されている。共同研究により供与頂いた株化した腫瘍血管内皮細胞を用いて、効率的にノックダウン可能なsiRNA配列を同定した。こうして得られたsiRNA配列をRGD-MENDに内封し担癌マウスに投与したところ、強い抗腫瘍効果を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、1年度目では腫瘍血管内皮細胞にsiRNAを送達可能なキャリアの開発のみを行う予定であった。しかしながら、効率的なスクリーニングによるin vivo腫瘍血管内皮細胞へとsiRNAを送達可能なリガンド修飾量や脂質組成を迅速見出すことに成功した。このキャリアはヒト腎細胞がん株を免疫不全マウスに皮下移植することで作成したがんモデルマウスに対して投与したところ、腫瘍血管内皮細胞で強い遺伝子の抑制を引き起こすことに成功した。また、協力研究者から供して頂いた腫瘍血管内皮細胞培養株を用いて、腫瘍の血管内皮細胞の成長を抑制するための血管内皮細胞成長因子受容体2に対するsiRNAの選定も当初の予定より早く行うことができた。更にこのように選定したsiRNAを前述のキャリアに内封して担がんマウスに投与したところ、強い腫瘍成長抑制効果を得ることに成功した。この結果は学術雑誌に論文投稿済みであり、また学会発表も既に行っている。これらのことから、著しい進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目的であった腫瘍血管内皮細胞の遺伝子を抑制することで強い遺伝子抑制効果を得ることに成功したが、その活性は未だ十分ではなく、まだまだ改良の余地がある。そこで、次年度では、より高活性なキャリアの構築を目的とする。初めに脂質組成の最適化を行う。現在用いている脂質組成はin vitroの培養細胞を用いて最適化を行っている。そこで今後担がんマウスにおける遺伝子抑制活性を指標として脂質組成の最適化を行っていく。また、siRNAの送達活性を向上させるために、新規機能素子の合成に着手する。新規機能素子の候補としては、腫瘍血管内皮細胞を認識する新しいリガンドの設計を計画している。既知の腫瘍血管内皮細胞に高親和性の低分子化合物を、本キャリアに修飾可能な誘導体として再設計し、キャリアの開発へと活かす。 さらに、マイクロアレイによって通常の血管内皮細胞と比較して腫瘍の血管内皮細胞においてのみ発現が亢進している新規遺伝子に対する抑制実験を行う。これにより当該遺伝子を抑制した時の血管の密度や構造、数などの表現系に与える影響を明らかにする。このアッセイにより、血管内皮細胞の成長や新生に重要な遺伝子が明らかになれば、新規の血管新生阻害療法標的として非常に有用である可能性を秘めていると考えられる。このように今後、本キャリアを用いた腫瘍の血管内皮細胞の”異常性”についての研究も推進していきたい。
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