研究課題/領域番号 |
25893040
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松崎 京子 (有本 京子) 東京大学, 医科学研究所, 助教 (90568932)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | ストレス応答 / ストレス顆粒 / 酸化ストレス / 小胞体ストレス |
研究概要 |
細胞は特定のストレス刺激(ヒ素、小胞体ストレス、ウイルス感染など)にさらされると、細胞質内にストレス顆粒と呼ばれる構造体を形成する。ストレス顆粒はmRNAやRNA結合タンパク質を取り込むことで、タンパク質の翻訳を一時的に停止し、細胞損傷を防ぐ。申請者はこれまでに、ストレス顆粒がタンパク質の翻訳を制御するだけでなく、アポトーシス関連因子を取り込み、その機能を阻害することでも、細胞の生存に寄与することを見出した。したがって、ストレス顆粒の形成制御は細胞の運命決定に重要な役割を果たしている。 生体内で細胞は、様々な種類、強度のストレス刺激に同時にさらされている。しかしながら、複合ストレス環境下でのストレス顆粒の形成制御はこれまで全く不明であった。そこで申請者は、様々なストレス刺激によるストレス顆粒形成を検証し、酸化ストレスがストレス顆粒形成を強く抑制することを見出した。細胞内に酸化ストレスと小胞体ストレスの両方が惹起された場合には、小胞体ストレスによるストレス顆粒形成が酸化ストレスによって阻害され、その結果アポトーシスが促進された。 平成25年度は、酸化ストレスによるストレス顆粒形成抑制の分子機構の解析を行った。その結果、酸化ストレスは、ストレス顆粒形成の核となるmRNA結合因子TIA1を酸化的に修飾し、酸化されたTIA1は自身の標的mRNAとの結合能を失うことを見出した。TIA1は特定の刺激依存的に標的mRNAと結合し、自身が多量体化することによってストレス顆粒形成の核となる。したがって、mRNAとの結合能を失った酸化型TIA1はストレス顆粒を形成することができない。更に、申請者はTIA1内の酸化標的となるCys残基を特定し、標的Cys をSerに置換したTIA1点変異体を細胞に発現させると、酸化条件下においてもストレス顆粒の形成が誘導され、細胞死が抑制されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内で細胞は様々な種類、強度のストレス刺激に同時にさらされおり、個々の細胞レベルで適切なストレス応答機構を働かせることで、個体全体としての恒常性が維持されている。従って、多くの疾患は複合ストレス条件下における細胞のストレス応答機構の制御異常に起因すると考えられる。 これまでの申請者の研究により、ストレス顆粒は細胞の生存に寄与する主要なストレス応答機構であることが明らかとなったが、複合ストレス条件下におけるストレス顆粒形成の制御や、ストレス顆粒形成の疾患への関与は、これまで全く不明であった。 本研究でははじめに、酸化条件下ではストレス顆粒の形成が抑制されることを見出し、平成25年度は、その分子機構の解明を目指し研究を行った。申請者のこれまでの実験結果に基づき、酸化ストレスがストレス顆粒形成を抑制する分子メカニズムとして、二つの可能性を提唱し、それぞれに対して検証を行った。その結果、当初の目的としていた通り、酸化ストレスによるストレス顆粒形成抑制の主要な分子機構を明らかにすることに成功した。従って、本研究は該当年度の研究目的を達成できたと言え、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、酸化ストレスによるストレス顆粒形成阻害が、神経変性疾患で見られる神経細胞死に関与するかを検証し、結果をまとめ発表する。 ハンチントン病を代表とするポリグルタミン(polyQ)病は、グルタミンをコードするCAG塩基配列の繰り返しが原因遺伝子で異常に伸長することで引き起こされる神経変性疾患である。ポリグルタミン病では、神経細胞内に異常タンパク質蓄積による小胞体ストレスと、ROSの産生による酸化ストレスとの両方が誘導され、細胞死が起こる。そこで、ポリグルタミン病に着目し、細胞レベル、個体レベルで、ストレス顆粒形成抑制の細胞死への寄与を検証する。 始めに、疾患モデル細胞株として70個のpolyQを安定的に発現誘導、蓄積させることができる安定細胞株の樹立を行う。樹立したモデル細胞株では、polyQ70の発現依存的に小胞体ストレスと酸化ストレスが誘導されることを確認する。次に、polyQ70の細胞内発現に伴い、TIA1が酸化され、この時、小胞体ストレスが生じているにも関わらずストレス顆粒形成が見られないことを確認する。さらに、酸化されないTIA1変異体を細胞内に発現させると、ストレス顆粒の形成が回復し、細胞死の抑制が見られることを確認する。 次に、ハンチントン病モデルマウス(R6/2マウス)を用いて個体レベルの解析を行う。疾患モデルマウスの脳、脊髄切片を作製し、免疫染色を行うことにより、個体レベルでも神経細胞において小胞体ストレスと酸化ストレスの両方が惹起されていることを確認する。さらにこの時、ストレス顆粒の形成が抑制されており、細胞に酸化抵抗性TIA1変異体を発現させると、ストレス顆粒形成が回復し、細胞死が抑制されることを確認する。
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