細胞はヒ素や低酸素、ウイルス感染などの特定のストレス刺激に応答して、細胞質内にストレス顆粒と呼ばれる一過性の構造体を形成し、タンパク質の翻訳を一時的に停止することで細胞の生存に寄与する。さらにこれまでに申請者が行った研究から、ストレス顆粒はアポトーシス関連因子を取り込み、その機能を阻害することによっても、細胞の生存に貢献することが明らかになった。しかしながら、実際に生体内で細胞が曝されるような、複合的なストレス環境下でのストレス顆粒の形成、および細胞生存との関連は、これまでまったく知られてない。 そこで申請者は、様々な複合的なストレス条件下でのストレス顆粒の形成を検証し、酸化ストレスが、ヒ素や小胞体ストレスによるストレス顆粒の形成を強く抑制することを見出した。平成25年度は、酸化ストレスによるストレス顆粒形成抑制の分子メカニズムとして、酸化ストレスがストレス顆粒形成の核となる分子の一つTIA1を直接酸化修飾することを明らかにした。 神経変性疾患では、神経細胞内に異常タンパク質の蓄積による小胞体ストレスと、ROSの産生による酸化ストレスの両方が生じ、結果的に神経細胞死が生じることが知られている。そこで申請者は、神経細胞内で酸化ストレスが小胞体ストレス誘導性のストレス顆粒形成を抑制することが、神経細胞死に寄与すると予想し、平成26年度はその検証実験を行った。代表的な神経変性疾患であるポリグルタミン病に着目し、はじめに、細胞内に異常に伸長したポリグルタミン鎖(polyQ70)を薬剤依存的に蓄積させることが出来るモデル細胞株を樹立した。モデル細胞において、細胞内にpolyQ70が蓄積された場合には、酸化ストレスと小胞体ストレスの両方が誘導されストレス顆粒の形成が抑制されること、さらにその結果細胞死が促進されることを確認した。
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