研究実績の概要 |
成体心筋細胞も僅かながらターンオーバーしており、既存の心筋細胞が分裂・増殖することがその主なメカニズムである。しかしながら、生きたままの分裂期細胞を扱うツールがないために、増殖能を保持・獲得した成体心筋細胞の特徴を解明し制御することは極めて困難であった。本課題では、(1)増殖期の心筋細胞を抽出・解析するツールを開発し、更に(2)増殖能を増幅する薬剤スクリーニング(創薬)を行うことを主目的とする。 (1)細胞周期インディケータFucciを用いて、心筋細胞特異的に細胞周期を単離・解析可能な in vitroシステムを構築し、分裂期・静止期と単核・2核を区別できる解析用プログラミングを用いて、低経費・短時間で生きた心筋細胞の細胞周期が観察可能となった。Fucciシステムを用いたin vivo解析系も構築中であり、これらを用いて、分裂期心筋細胞の特徴や成体心筋細胞の分裂能が著しく減弱(ほぼ停止)する分子機序を明らかとしたい。 (2)臓器や器官の適切な大きさ(増殖の程度)を決める役割を担い、心筋細胞の増殖能にも関連するHippo-YAP経路を修飾する薬剤のスクリーニング作業を開始した。約20,000種類の未知化合物ライブラリーから、2種類の有用な化合物選出に成功した。今後は、側鎖構造を改変することによって、生体内で安定し活性も高く、一方で毒性も少ない薬剤の創出を試みた上で、詳細な作用機序の検証を追加する予定である。 これらの成果を生理的および病態モデルマウスで検証し応用することで、成体心筋細胞の増殖能を増幅する治療方法の開発へと繋げたい。
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