心臓の基礎研究はこれまで左心臓(左心室)についておこなわれており、右心臓は殆ど研究の対象にされていなかった。しかし近年、右心病態が心疾患の予後に重要であることが臨床研究の結果から示唆されている。本研究は右心肥大、右心不全の病態を分子生物学的に解明することを目的とし、左右心筋細胞のストレス応答性の違いを、心疾患発症、進展に寄与する代表的ストレスであるGqストレスにフォーカスして検討した。 具体的には雄性野生型(C57/Bl6)マウスにアンジオテンシンII(あるいはvehicle)を2週間持続投与することによって、慢性的なGqストレスを心臓に与えた後、心筋細胞を単離して、RNAシーケンスによるトランスクリプトーム解析を行った。22134個の遺伝子発現を定量してgene ontology解析をおこなった結果、右心筋細胞ではベースラインにおいて、 "negative regulation of signal transduction"、"negative regulation of Wnt receptor signaling pathway"に属する遺伝子が多く発現していること、また慢性Gqストレスによってアポトーシス経路に関連する遺伝子が多く発現することを見出した。これらGqストレスを与えたマウス心筋組織を用いてウエスタンブロット法でタンパク解析をおこなったところ、左右心筋には同等のGqストレスがかかっているにも関わらず、右心筋組織でのみcleaved caspaseの有意な上昇を認めた。この結果は右心臓は左心臓と比べてストレスでアポトーシスが誘導されやすいことを示唆している。現在、ベースラインのトランスクリプトーム解析結果をさらに詳細に検討することによって、右心臓に特徴的なストレス応答反応の鍵となっている遺伝子を絞り込んでいる。さらにPDE5阻害薬を用いてcGMPシグナルを活性化することによる分子生理学的影響を検討中である。
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