リポカリン-2のノックアウトマウス由来骨髄細胞を用い、同因子の正常造血細胞、JAK2V617F陽性細胞に及ぼす効果を調べた。同マウス由来骨髄細胞にリポカリン-2を外的に加えると、正常細胞では増殖の抑制が起こるのに対し、JAK2V617F陽性細胞ではこの反応が起こらないことがわかった。JAK2V617F陽性細胞では、p53の内因性阻害タンパクであるMDM2の発現上昇が見られ、これによりDNA損傷に伴うp53経路の活性化が阻害されていた。実際、MDM2の阻害剤であるnutlin-3をリポカリン-2とともに加えると、JAK2V617F陽性細胞でも同様に細胞増殖が抑制された。以上のことから、JAK2V617F陽性細胞は、DNA損傷に対する応答の違いを利用して、自身が産生するリポカリン-2が正常造血を相対的に抑制することで、MPNの増生に寄与している可能性が示唆された。このことをin vivoで確認するため、マウス骨髄細胞にJAK2V617Fとリポカリン-2に対するshRNA、またはコントロールshRNAを共導入して同系マウスに移植した。リポカリン-2の発現が減少した細胞では、MPN自体は発症するが、コントロールと比較してその骨髄生着能が有意に減少することが示され、同因子のMPN発症における寄与が示された。このことはMPNの発症機序の一端を解明する知見と考えらえる。MPNからの白血病発症モデルについてはp53ノックアウトマウスをレシピエントとしてJAK2V617F導入細胞を移植し、パラクライン作用による白血病発症を観察したが、数か月間の観察後、発症には至らなかった。またMPN患者由来骨髄細胞を用い、リポカリン-2が多くの症例で過剰分泌されていること、正常骨髄細胞と異なり、同因子の投与により細胞増殖が影響されないことを確認し、ヒト細胞でも基本的に同じ現象が観察されることを確認した。
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