慢性炎症は、生活習慣病と癌に共通する基盤病態である。一方、肥満や生活習慣病の存在は個体における発癌や慢性肺疾患、神経変性疾患など種々の疾患のリスク要因となるが、その発症メカニズムは明らかではない。本研究では、肥満・糖尿病患者において発がんや拘束性・閉塞性肺疾患の発症頻度が高いのは、肥満による代謝変化が、全身の諸臓器に分布するマクロファージにメタボリックリプログラミングとも言うべき転写・エピジェネティック応答の変調をもたらし、炎症応答を慢性化させている可能性が高いのではないかと考えた。この仮説を検証すべく、肥満・非肥満マウスより採取したマクロファージ細胞に、炎症を惹起するTLR4アゴニスト刺激を加えた際の遺伝子発現の変化をRNA-seqにて解析した。その結果、興味深いことに炎症反応の後期に発現が増加する、脂肪酸合成関連遺伝子群の誘導が、肥満マウスでは野生型対照群に比較して有意に減少していることが明らかとなった。当該遺伝子群には、抗炎症作用をもつ不飽和脂肪酸の合成に必須な酵素群も含まれていた。この結果から、肥満時には代謝臓器だけではなく全身に分布するマクロファージの機能が変化することをグローバルな遺伝子変動の観点から示すことができたと同時に、マクロファージをはじめとした免疫細胞の機能が細胞内の脂質代謝と密接に連携することの一例を示すことができたと考えている。現在は今回観察されたマクロファージ機能の変化をもたらす分子機構を明確にすると同時に、癌移植や慢性肺疾患モデルなどのin vivoモデルを用いた研究を進めている。
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