研究概要 |
本研究では、実験と計算科学を駆使し、内リンパ液高電位を支える血管条外層の電位(+5 mV)の維持機構の解明を目的とした。 まず、数理モデルによる外層基底側膜の輸送分子阻害時の表現型の予測現行のモデル上で、外層基底側膜に設定しているK+取込み輸送体(Na+,K+-ATPase・NKCC)の活性を10%に低下させると、K+循環がこの場所で障害されることで外層内のK+濃度が減少し、頂上膜のK+拡散電位およびISの電位の低下を介して内リンパ液高電位も大きく減少した。加えて、K+取込み輸送体を様々な度合いで阻害した場合や、Na+,K+-ATPaseとNKCCの一方を阻害した場合などモデルを用いて検討した。しかし、外層基底側膜のNa+,K+-ATPaseとNKCCを含めた数理モデルでは、膜電位の変化が再現できなかった。そのため、再度電気生理学的手法を用いて検証を行った。 申請者のグループは、in vivo実験系で薬物を用いた電気生理学的手法により、外層基底側膜に発現するNa+,K+-ATPaseの寄与について研究を行い、内リンパ液高電位とK+循環への寄与を明らかにした。具体的には、Na+,K+-ATPaseの阻害薬であるウアバインを投与し、外層基底側膜のK+濃度が低下することを確認できた。さらに、同部位におけるNKCCの役割を、NKCC選択的阻害薬を用いて検証した。その結果、外層基底側膜のK+濃度は、阻害薬の投与後も低下を認めず、これまでK+循環や内リンパ電位に関係すると考えられて来たNKCCが、実際には殆ど寄与していないことが実験により明らかとなった。 今後、この結果を元に数理モデルの改変を行い、更にこの現象を考察する予定である。
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