本研究は、HSV-1皮膚感染モデルを用い、水痘・帯状疱疹ウイルスによる帯状疱疹の皮膚病変に伴う疼痛発症のメカニズムおよび帯状疱疹関連痛や帯状疱疹後神経痛の病態に関する基礎研究を行うことが目的である。 HSV-1皮膚感染マウスモデルでは、HSV-1の経皮感染により片側性に感覚神経に沿った帯状の水疱または潰瘍が出現し、ヒトの帯状疱疹に類似した皮膚病変がみられる。BALB/cマウス系マウスを用いたモデルではHSV-1接種後約半数のマウスに運動麻痺が出現し最終的には脳炎を起こし死亡してしまうことが知られている。抗ヘルペスウイルス薬の投与により後肢の運動麻痺と脳炎による死亡を抑制することができれば、帯状疱疹後神経痛に伴う形態学的変化を効率的に検討できる。 平成26年度は新規抗ヘルペスウイルス薬であるヘリカーゼ-プライマーゼ抑制薬ASP2151のHSV-1複製阻害作用に関する検討を行った。
ASP2151のHSV-1複製阻害作用について、既存の抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル(ACV)と比較するため、ウイルス感染後のHSVゲノムコピー数の変化をリアルタイムPCR法、培養上清中の感染性ウイルス量をプラークアッセイ法により調べた。ACVと比較して、ASP2151はHSV-1の複製をより強力に抑制した。ウイルス感染後に一定時間薬剤処理を行い、その後薬剤を除去しウイルス複製の回復を調べた結果、ACV処理群では薬剤除去後のウイルス複製の回復は薬剤処理時間の長さの影響を受けなかったのに対し、ASP処理群では薬剤処理時間の長さに応じてウイルス複製の回復が遅れる傾向がみられた。ASP2151はACVと比較して感染性ウイルスの産生量を顕著に低下させた。以上のことから、ASP2151はHSV感染症の治療薬としてだけでなく、抑制療法薬としてACVよりも優れた抗ヘルペスウイルス薬となり得ることが示唆された。
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