爬虫類や魚類などの下位脊椎動物の心筋細胞は旺盛な分裂能を持っており、傷害により心筋細胞が失われてもほぼ完全に再生されることが知られている。ヒトを含む哺乳類の成体の心筋細胞は再生しないと考えられているが、新生児心筋細胞は下位脊椎動物と似た心筋再生能を保存していることが知られている。また、最近の報告では、頻度は極限られていいるが、成体心筋細胞も分裂能を有しているとの報告もある。 我々は、哺乳類の成体心筋細胞はほんとに分裂するのか、分裂するならばどのような心筋細胞が分裂するのか、また、そのメカニズムはどのように制御せれているのかを知るために、本研究を開始した。まず初めに、thymidine analogを用いて、心筋細胞の核酸合成能を調べた。それによると、8週齢の成体マウスでは約0.025%/週の心筋細胞が核酸合成しているにとどまるのに対し、左室圧負荷マウスでは約1%/週と40倍もの心筋細胞が核酸合成を行っていた。マウス心筋細胞は、細胞質分裂を伴わない核分裂をし、多核化するので、核酸合成が起こることが、細胞分裂の存在を証明することにはならない。そこで、ランゲンドルフ装置を用いて、タンパク分解酵素を冠動脈より逆行性に潅流させ単一心筋細胞を分離し、心筋細胞中の核数を調べた。左室圧負荷を行った早期では、核酸合成が行われた心筋細胞中、単核細胞の割合が増加し、その後多核細胞の割合が増加していた。これらの所見は、核酸は細胞分裂の過程で合成されたこと考えられた。 次に、新たに産生されたと考えれれる心筋細胞は、どのように作られたかを調べるために、genetic fate mapping法を用いて検討を行った。その結果、新生心筋は、あらかじめ存在する心筋細胞が分裂することにより産生されたことが示された。
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