研究課題
研究活動スタート支援
上皮間葉転換(Epithelial to Mesenchymal Transition: EMT)は基底膜上に規則正しく配列した上皮細胞がその極性を失い、間葉系細胞に変化する現象であり、癌の浸潤、転移、そして抗癌剤の耐性などに関与することが知られている。卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の中でも最も予後不良な一つであり、我々は卵巣癌における新たな治療法を確立するため、卵巣癌に特有なEMT誘導因子の探索を試みた。2種類のsiRNAを作成し、卵巣癌細胞株2種類(ES-2、HEY)を用い、PLAGL2抑制による形態変化を観察した。その結果、2種類の細胞においてアクチンストレスファイバーの増強及びフォーカルアドヒージョンの形成を認めた。また、遊走能においてはPLAGL2抑制により有意な低下を認めた。次に、この形態変化がRho GTPaseの変化によるものが強く疑われたため、GSTビーズを用いたPull Down Assayを行った。そこでは、Rho GTPaseのRhoAの活性化が上昇し、Rac1の活性が低下しており、この変化が形態に影響を与えている可能性が示された。そこで、PLAGL2を抑制した細胞にRho/ROCKのinhibitorであるY27632を用いRhoAを抑制させ形態変化を観察した。PLAGL2を抑制しファイバー形成を認めたES-2細胞にY27632を添加するとファイバーは消失した。このことから、PLAGL2による細胞形態の変化はRhoAが関わっていることが確認できた。また、マイクロアレイ解析よりPLAGL2の抑制によりCHN1の発現上昇が見られた。そこで、pSirenシリーズのベクターを用いCHN1のshRNAを作成し、ES-2細胞に導入した。今後はこの細胞株を使用し検討を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
Rho/ROCKのinhibitorであるY27632を用い、PLAGL2抑制による形態変化がRhoA依存性の変化である可能性を示した。siRNAによる抑制実験は順調に進行しているが、PLAGL2の遺伝子導入による過剰発現系の実験では上皮葉携帯を持つ卵巣癌細胞株では導入効率が悪くうまく行えなかった。そのため、乳癌細胞株であるMDA-MB-231を用い過剰発現系の実験を行っている。また、CHN1のshRNAを導入した細胞株の作成し、現在検討を進めている。全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
ES2細胞株でCHN1のshRNAを導入し、恒常的なCHN1抑制細胞株の作成に成功した。この細胞株を用い、PLAGL2とRho GTPaseのRhoA、Rac1のメカニズムの解明を検討していく。PLAGL2とCHN1をES-2細胞株で同時に抑制し、Rho GTPaseの活性化の変化を検討することにより、Rho GTPaseとCHN1の関連性を評価する。次に、PLAGL2を恒常的に発現させたMDA-MB-231細胞を用い、形態変化、浸潤・転移について検討を深める。また、PLAGL2の発現を抑制させたES2細胞、PLAGL2を導入したMDA-MB-231細胞でマウスの腹膜播種モデルを作成し、その腫瘍形成能、腹水産生量・遠隔転移腫瘍形成能さらに全生存期間などを多面的に解析する。さらに実際の卵巣癌検体を用いPLAGL2およびEMT関連因子の変化も検討していきたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Gynecologic Oncology
巻: 25(1) ページ: 43-50
10.3802/jgo.2014.25.1.43.