研究概要 |
1. 卵巣癌における腹膜中皮細胞の活性化について解析を行った。手術にて摘出した大網組織より腹膜中皮細胞を単離し、TGF-β、卵巣癌細胞株SKOV3, ES2の培養上清、癌性腹水を添加すると、敷石状から紡錘形の線維芽細胞様に形態変化した。この形態変化により、Eカドヘリンは低下、Nカドヘリンは上昇することを、ウエスタンブロットにて確認した。またcancer-associated fibroblastのマーカーであるαSMAの発現の上昇も認めた。 2. 手術検体より分取した腹膜中皮細胞は、通常敷石状の形態であったが、一部の症例では紡錘形の線維芽細胞様形態を呈していた。当初は、分取の際の手技的問題かと思われたが、手技は安定しており、進行例においてみられた現象であることから、生体内で中皮細胞がすでに形態変化を起こしていたと考えるのが妥当であると思われた。 3. 正常中皮細胞とTGF-β添加により活性化した中皮細胞より培養上清を回収し、卵巣癌細胞株の遊走能に与える影響を検討した。正常中皮細胞またはTGF-β添加により活性化した中皮細胞の培養上清をtranswell chanberの下層におき、ES2の遊走能を比較したところ、活性化した中皮細胞の培養上清により遊走能が有意に亢進した。一方SKOV3の遊走能は、活性化した中皮細胞の培養上清により亢進したものの、有意な差はみられなかった。 4. 正常中皮細胞とTGF-βの添加により形態変化した中皮細胞に対しマイクロアレイ解析を行ったところ、形態変化した中皮細胞では、IFG-1,2, HB-EGF, PDGF, VEGF-A等の発現亢進がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
卵巣癌における腹膜中皮細胞の活性化メカニズムの解明については、TGF-β以外にEGF、FGF、IL-6,8,10などの液性因子による中皮細胞の活性化についても解析を進める。また手術検体より得た腹膜中皮細胞が、敷石状ではなく紡錘形の形態の場合は、実験に用いずに終了していたが、これらの細胞と正常の中皮細胞との形態、機能の差異についても解析したのち、卵巣癌細胞に与える影響の差異についても検討する。 また、ヌードマウスを用い卵巣癌細胞の皮下投与と腹腔内投与により形成される腫瘍の表現型の相違について、検討をすすめる。腫瘍の病理組織学的検討により、癌間質の相違等について検討し、癌細胞については癌幹細胞マーカーやEMTマーカーの免疫染色を行い、皮下腫瘍と腹腔内腫瘍における癌細胞の表現型が異なるか検討する。 活性化した腹膜中皮細胞が卵巣癌細胞に与える影響について検討を継続発展させる。正常中皮細胞あるいは活性化した中皮細胞の培養上清を用い、卵巣癌細胞株の増殖能、コロニー形成能、stemness維持に与える影響を検討する。特にstemness維持に与える影響について評価したのち、stemness維持シグナルとして知られるNotch、Wnt、Hedgehogシグナルを中心に解析し、stemness維持シグナルの活性化メカニズムの解明をする。 最終的にはin vivoにおいてstemness維持シグナルを活性化させる分子を阻害することにより腹膜播種を抑制するか評価する。
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