臨床的に感染性心内膜炎(IE)等の血管内感染症や不明熱症例を対象に、全血を用いたマルチプレックスPCRによる細菌遺伝子検査の有用性について検討した。平成25年10月から平成26年3月までの半年間で、IE確定例5例(全例血液培養陽性)、不明熱6例(全例血液培養陰性)に対して全血PCR検査を行った。 IE確定の5例の起炎菌は、Enterococcus faecalis 2例、streptococcus mitis 1例、stereptococcus sanguinis 1例、MSSA 1例であった。Enterococcus faecalisが起炎菌であった1例は、僧房弁・三尖弁自己弁のIEに対して保存的に加療した症例であるが、血液培養陰性化した2ヶ月後の時点でもPCR陽性を認めた。一方、strepotococcus mitisが起炎菌であった1例は、僧房弁自己弁のIEで、抗菌治療開始1週間後、血液培養陰性化した時点ですでにPCRは陰性化しており、菌種・IEの治療経過によりPCR陽性期間に差が生じる可能性が示唆された。本例は、抗菌治療開始2週間後に僧房弁置換術が施行されたが、手術摘出検体の培養は陰性、PCRは陽性であった。MSSAが起炎菌であった1例について、大動脈弁自己弁のIE症例で、全身膿瘍を来たした症例であるが、遺伝子検査にてPanton-Valentine leukocidin(PVL)陽性であり、毒素産生型のブドウ球菌感染症と判明したため、その点を考慮した抗菌薬の選択を行うことが出来た。不明熱(血液培養陰性)症例については、1例で真菌PCRが陽性となったが、他の5例はいずれもPCR陰性で膠原病等他の原因と診断された。全血PCRによる細菌遺伝子診断は、起炎菌の推定・治療法の選択に有益な情報を与える可能性が示唆された。
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