研究実績の概要 |
臨床的に感染性心内膜炎(IE)等の血管内感染症や不明熱例を対象に、全血を用いたマルチプレクスPCRによる細菌遺伝子検査の有用性について検討した。平成26年4月から平成27年3月までの1年間で、IE確定例5例、不明熱例4例に対して全血PCR検査を実施した。 IE確定例5例の起炎菌は、streptococcus 3例(S.sanguinis 1例、S. mitis 1例、S. viridans group 1例)、MSSA 2例で、MSSAの1例はculture negative IEに対してPCRにて確定できた。不明熱(血液培養陰性)に対して4例実施し、3例はPCRも陰性で菌血症は否定的と判断、1例については、エンドトキシン高値の敗血症で、全血PCRにてenterobacter sp.の遺伝子を検出したため、グラム陰性桿菌感染症によるエンドトキシンショックと診断・対応できた。 平成25年度から26年度にかけて経過フォローしたMSSAによる全身膿瘍をきたした1例については、遺伝子検査にてPanton-Valentine Leukocidin (PVL)が陽性であり、毒素産生を抑える目的で、蛋白合成阻害剤であるLZD, CLDMの併用を行った。本例については、人工弁置換術を実施したが、術後も全血PCRにて細菌遺伝子、PVL遺伝子を継続的にフォローし、発症141日(術後82病日)にPCR陰性を確認した。PCR陽性期間中、抗菌薬投与が必要かどうかは、今後の検討課題であるが、本例については、PCR陽性の間、経口抗菌薬を継続し、軽快した。 全血PCRによる細菌遺伝子検査は、起炎菌の推定・治療法の選択に有益な情報を与える可能性が示唆された。
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