腎移植後の拒絶反応は長期生着率に影響を与える大きな危険因子の一つである。補体は生体が病原体を排除する際それを補助する生化学的カスケードであり自然免疫系に属している。しかし獲得免疫系においても補体が関与する可能性が示唆されている。腎移植の分野では抗体関連型拒絶反応において、補体の古典的経路が活性化することが知られているが、近年T細胞関連型拒絶反応においても関与することが報告されており、補体に対する治療は腎移植の予後を改善する有効な手段であると考えられる。 我々はラット腎移植急性T細胞関連型拒絶反応モデルを用いて移植腎における補体の発生を経時的に評価したところ、古典経路であるC4の発現上昇は認められず、第2経路であるfactor Hの発現上昇を確認した。つまりT細胞関連型拒絶反応モデルにおいては第2経路によって補体カスケードが活性化していることを発見した。さらに補体制御因子であるCrry、CD55、CD59が経時的に低下していくことも確認した。純度が高いrecombinant Crryを作成することが出来なかったため、補体制御因子による拒絶反応抑制効果については実験できなかったが、抗Crry抗体、抗CD59抗体を用いて補体制御因子を抑制すると生着期間が短縮した。このことより補体制御因子には拒絶反応抑制効果があると考えられた。 さらにはヒトの急性T細胞関連型拒絶反応における生検サンプルを補体制御因子であるCD46の発現によって比較検討したところ、CD46が高発現している症例においては拒絶反応に対する治療の反応性が良好であり、また高発現群は低発現群よりも移植腎の生着率が良好であった。 以上の結果から、T細胞関連型拒絶反応においては第2経路および補体制御因子の低下によって補体カスケードが活性化しており、補体制御因子が新たな治療ターゲットとなりうると考えられた。
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