研究課題
研究活動スタート支援
心臓拍動の歩調とりは、心臓の洞結節に存在するペースメーカ細胞によっている。しかし、ヒトの生体から直接採取することは不可能なため、生化学的解析をはじめとして電気生理学的解析も十分ではない。そこで、1)独自のペースメーカ細胞の可視化-選別法を用い、ヒトES(embryonic stem)細胞からペースメーカ細胞を選択的に分取する実験系の構築と、2)大量調整が可能なES細胞の分化誘導系の特徴を活かし、自動能の生成に関わるIfチャネルのサブユニット構造の解析を試みた。1)これまでにKhES-1ヒトES 細胞株を用いて、拍動部位に特異的にGFPを発現する#1株の樹立に成功していた。ペースメーカ細胞を再現性良く分取できるか調べたところ、高い自家蛍光のためGFP蛍光が隠れ、選別がうまくいかない場合があることが分かった。そこで、#1株を用いて培養法など検討を進めるとともに、KhES-3株を用いて新たに40株を樹立し、#21株を同定した。#21株も#1株と同様に、正常な核型を示し、拍動部位でのみGFPを発現することを明らかにしている。また、心筋分化初期には、自家蛍光が低いことなどが分かった。2)Ifチャネルは、HCN4を主要な構成要素とすることから、免疫沈降法によってHCN4と相互作用する分子の同定を試みた。本年度は、免疫沈降の条件決めを行った。Chick β-Actin プロモーターの下流に、HAタグを付加したHCN4の強制発現ベクターを作製し、過剰発現させたHEK293細胞を樹立した。パッチクランプ法で解析すると、If電流を検出でき、加えて、ウエスタンブロッティング法や免疫染色法によって、HCN4を過剰発現していることが分かった。この過剰発現株を用いて、HCN4および結合タンパク質の免疫沈降実験のための、抗体の選定など各種パラメータの条件決めを行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、入手が困難な心臓ペースメーカ細胞を大量に純化した状態で調整し、その特性を解析することである。このため、最も重要なことは、効率よく、しかも大量に純化したペースメーカ細胞を選別採取できる実験系を構築することである。本年度の研究から、ペースメーカ細胞の最良のマーカーであるHCN4遺伝子座に、BACベクターを用いてGFP遺伝子をセミノックインすることによって、拍動部位で、GFPが特異的に発現するヒトES細胞株の樹立に成功した。これによって、ペースメーカ細胞の選別採取の可能性が大きく広がり、その特性解析に移ることが可能となる。予備的な結果であるが、樹立した#1株の心筋分化画分からHCN4陽性細胞の調整に成功し、HCN4の発現などの確認にも成功しており、ほぼ計画通りに進行している。しかし、自家蛍光が高く、GFPシグナルが隠れてしまうこともあり、現在、より良い培養法、分離法の検討を進めている。また、Ifチャネルの構造解析は、HCN4と相互作用する分子の同定によって進める方針である。このためには、どのHCN4抗体を用いるのか、免疫沈降の条件はどうするのかなど、予備的な研究が必要である。本年度は、HAタグを付加したHCN4の過剰発現ベクターの作製、過剰発現細胞でのHA-HCN4タンパク質の発現、それに伴うIf 電流の生成を確認することができた。この細胞を用いることによって、HCN4抗体の選別、HAタグを利用した条件決めなどが可能となる。ひとたび条件を決定できれば、私は、すでにマウスES 細胞に由来するHCN4陽性ペースメーカ細胞の調整に成功しているので、速やかに免疫沈降実験を開始できると考えている。
今後は、以下の4項目の検討を行う。①ペースメーカ細胞の特性解析、②Ifチャネルサブユニット構造の解明、③ペースメーカ細胞で発現する遺伝子の網羅的遺伝子解析、④ペースメーカ細胞の自動能の生成基盤の解明。① 分取精製したGFP陽性細胞が、ペースメーカ細胞特性を示すかどうかを検証する。具体的には、RT-PCRや免疫染色によるマーカー遺伝子(HCN4など)の発現解析、パッチクランプ法による電気生理学的特性解析(If電流)、自律神経作動薬に対する応答能などを調べる。② ペースメーカ細胞におけるIfチャネルの構成タンパク質を、免疫沈降実験により同定する。まずHA-HCN4を過剰発現するHEK293細胞やHL-1心房筋細胞を用いて、HA抗体などによる免疫沈降実験を行い、実験系の適正化・条件決めを図る。マウスES 細胞に由来するHCN4陽性細胞を用いて、HCN4抗体による免疫沈降実験を行う。沈降産物に、(1)他のHCNファミリー遺伝子、(2)MiRP1が含まれるか、を各抗体によるウエスタンブロッティングによって検証する。また、沈降産物を直接、質量分析にかけ、HCN4に結合するタンパク質を同定する。③ マイクロアレイあるいは次世代シーケンサーにより、ヒトHCN4陽性細胞の遺伝子発現プロファイルを作成する。加えて、ヒトNKX2.5陽性細胞やヒトMYH6陽性細胞について作成した遺伝子発現プロファイルと比較し、ペースメーカ細胞特異的な生理機能に関わる遺伝子の絞込を行う。④ 上記の研究によって、候補遺伝子を特定できれば、その遺伝子に対するノックダウン実験及び過剰発現実験を行い、自動能、If電流などの変化をパッチクランプ法により測定する。これらの実験より候補遺伝子が、どのようにペースメーカ機能に関わるか明らかにし、ペースメーカ細胞の自動能の生成基盤を解明する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 備考 (2件)
Pacing and Clinical Electrophysiology
巻: 未定 ページ: 未定
10.1111/pace.12360
Yonago Acta Medica
巻: 56(4) ページ: 93-95
Cardiovascular Research
巻: 100(3) ページ: 520-528
10.1093/cvr/cvt200
Drug Research
巻: 63(10) ページ: 515-520
10.1055/s-0033-1347188
日本甲状腺学会雑誌
巻: 4(1) ページ: 68-69
鳥取県西部医師会報
巻: 170 ページ: 23-25
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 434(1) ページ: 131-136
10.1016/j.bbrc.2013.03.056
http://www.med.tottori-u.ac.jp/regmed/
http://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/departments/center/next-generation-advanced-medical-promotion-center/