本研究は,中枢神経系における唾液分泌調整メカニズムを解明することを大きな目的としている.特に,上位中枢のうち大脳皮質咀嚼野に着目し,咀嚼運動と唾液分泌の関連および咀嚼野が唾液分泌に及ぼす機能を,ラットを用いた動物実験で解明することを目的としている. ラットには大脳皮質咀嚼野が2つ存在し,連続電気刺激すると異なるパターンのリズミカルな咀嚼様顎運動が誘発されることが知られている.本研究では,ラットの顎下腺導管にカニューレを設置し,2つの皮質咀嚼野を電気刺激したときの咀嚼様顎運動と唾液分泌を同時に記録した.その結果,2つの皮質咀嚼野のうち,後方の咀嚼野(P-area)の刺激でのみ顎下腺唾液分泌が誘発されることが明らかとなった.また,皮質咀嚼野への電気刺激の強度を変化させることで,誘発される顎運動と唾液分泌に違いがあることが分かった. さらに,筋弛緩剤を用いてラットを非動化して電気刺激を行ったところ,咀嚼様顎運動が生じないにもかかわらず唾液分泌が誘発された.このことから,唾液分泌は顎運動に伴う口腔感覚によって反射的に生じているだけでなく,中枢性にもコントロールされていることが明らかとなった. 本研究によってはじめて,大脳皮質咀嚼野の刺激によって誘発される顎運動と唾液分泌の関連が明らかとなった。したがって本研究は,唾液分泌における中枢神経系の機能を解明する上で非常に重要な意義があったと考える.
|