研究課題/領域番号 |
25893149
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
新城 尊徳 広島大学, 大学病院, 歯科診療医 (20711394)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 抗炎症効果 / 糖尿病 / 脂肪 / マクロファージ |
研究概要 |
申請者は、DPP4阻害薬SK-0403(anagliptin)を用いてマクロファージ(RAW264.7細胞)におけるLPS誘導性炎症性遺伝子発現抑制効果を認めた結果に基づき、DPP4活性阻害による抗炎症効果を推察し検討を行っている。代表的なDPP4阻害薬であるsitagliptinで同様の検討を行ったところ、炎症性遺伝子発現抑制傾向を認めるにとどまり、anagliptinの抗炎症効果はDPP4阻害様式の違いによるものかあるいはanagliptin独自の効果であることが示唆された。また、RAW細胞と3T3-L1脂肪細胞の共培養条件下でLPS刺激をした際のanagliptinの抗炎症効果について検討したところ、濃度依存的に脂肪細胞での炎症性アディポサイトカインの遺伝子発現ならびに分泌が抑制された。3T3-L1脂肪細胞にTNFαを添加してanagliptinによる効果を検討したところ、同様の抗炎症効果を認めたことから、anagliptinが脂肪細胞に対しても抗炎症効果を発揮することが示唆された。 次に、LPSを腹腔内投与したマウスにおいてanagliptinの抗炎症効果を臓器別に検討した。肝NF-κBレポーターアッセイをin vivoイメージング法で評価したところ、anagliptin投与によってLPS誘導性肝NF-κB活性化が有意に抑制された。また、LPS投与による肝・脂肪組織での炎症性サイトカイン遺伝子発現もanagliptin投与群で有意に抑制された。 続いて、3T3-L1脂肪細胞を用いてインスリンシグナル伝達への影響について検討したところ、anagliptin添加によりインスリン刺激時のAktリン酸化が有意に増強された。また、anagliptin添加によって3T3-L1脂肪細胞における経時的な分化マーカー遺伝子の発現が上昇することが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
anagliptinの持つ抗炎症効果が、マクロファージのみならず脂肪細胞にも認められ、かつin vivoでのマウス肝・脂肪組織においても抗炎症効果を認めたことは、当初の実験計画で推察していた以上にanagliptinまたDPP4阻害による多面的な効果を示唆するものとして考察できる。具体的には、in vitroの実験系としてRAW細胞と3T3-L1脂肪細胞共培養系での炎症性アディポサイトカインの遺伝子発現抑制に一致して炎症性アディポサイトカイン分泌が濃度依存的に抑制されたクリアなデータを出すことができた。また、脂肪細胞に対してもTNFα添加による炎症反応を抑制することを示唆するデータが得られたことから、anagliptinの脂肪細胞への作用についても洞察を得ることができ、実験の視野が広がった。また、in vivoの実験系として野生型マウスにLPSを腹腔内投与した個体にanagliptinを同じく腹腔内投与したモデルで、肝臓でのNF-κBレポーターアッセイと肝臓・脂肪組織での炎症性遺伝子の検討した結果、各臓器での抗炎症効果が認められたことから、anagliptinの抗炎症効果が全身的にも効果を持つことが分かった。実際の標的分子の同定に関しては、LPS-TLR4-NF-κB/AP-1経路下流分子としてIRAK1について、可溶型DPP4とcaveolinとの関連性を示唆する報告が出てきていることから、DPP4-caveolin-IRAK-NF-κB経路について今後検討を行っていく予定である。 以上の通り、当初の実験計画よりもさらにanagliptinの多角的な作用について示唆するデータを得られており、今後の研究進行において重要な要素となることから、現在の実験達成度としては、おおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで得られているデータから、今後の研究の推進方策としてまずin vitro、in vivoでのanagliptinの抗炎症効果についてさらに検討を進めていく。次いで、anagliptinの抗炎症効果について、標的分子の同定を行っていく。具体的には、前述の通りLPS刺激RAW細胞、TNFα添加3T3-L1脂肪細胞のライセートより、anagliptinによるTLR4-NF-κB経路に存在する下流分子群への影響をウェスタンブロット法で検討する。影響がみられた分子群のうち一番上流にあるものについて、DPP4をsiRNA法でノックダウンして同じく影響を検討し、標的分子の候補とする。そこから、アフィニティクロマトグラフィ法などでDPP4と標的分子の結合を確認する。さらに、標的たんぱく質のノックダウンも行ってウェスタンブロットでの下流分子への影響ならびに炎症性遺伝子の発現への効果についても検討する。万一、標的分子の同定が困難な場合、より広い分子群からの同定を目的としてDPP4と親和性のあるたんぱく質を、ビオチン化したDPP4を用いたアフィニティクロマトグラフィ法を行う。その後、同定された標的たんぱく質をin vitroやin vivoの系でノックダウンや過剰発現を行い、その分子の性質に応じて関連する機能解析を行う。さらに、in vivoにおいては、炎症の誘発や高脂肪食負荷などして、標的たんぱく質の挙動について検討する。
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