研究実績の概要 |
蚊やマダニは吸血によりウイルスや細菌など様々な病原体を媒介する重要な衛生害虫である。これら媒介節足動物の培養細胞は、その生物と病原微生物間の相互作用の解析を行う上で重要な研究ツールである。しかし、これまで本邦マダニ由来の培養細胞株は存在しなかった。そこで本研究では、本邦マダニ由来の細胞株樹立の試みと、本邦マダニが保有するウイルスの網羅的探索を行った。 (1) 本邦マダニ由来細胞株の樹立;我が国に分布するマダニ47種のうち、人畜への刺咬例が多いマダニ種を用いて初代培養を試みた。組織片には、産下卵を表面殺菌したもの、新生幼虫、成虫を解剖して得た体内組織を用いた。培養液は、蚊やマダニの組織培養で実績のある数種類の基礎培地(Grace, Schneider, MM, VP-12, L-15等)に、ウシ胎児血清やTPBなどの添加物、抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)を様々な濃度で組み合わせて用いた。その結果、組織片をタカサゴキララマダニ成虫の体内組織、培地をVP-12(ウシ胎児血清15%, TPB15%, 抗生物質0.1%添加)とした実験区において、一部、細胞分化の誘導が認められた。しかし、これら分裂細胞は培養容器との接着が弱かったために浮遊し、その後、分裂は停滞した。現在、より細胞接着能の高い培養容器を用いて、同条件下での初代培養を進めている。 (2) 本邦マダニが保有するウイルスの網羅的探索;日本国内において、旗釣り法で集めたマダニや動物に寄生していたマダニを用いて、ウイルス遺伝子の検出ならびに培養細胞を用いたウイルス分離を実施した。現在、陽性疑いの分離株が複数得られており、それらの遺伝子解析および性状解析を進めている。
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