本研究では、乳ガンの中でも予後が不良と考えられているトリプルネガティブ乳ガン (TNBC) に着目し、分子標的となりうるマスターシグナル伝達物質の同定を目的として検討を行った。 1、(TNBC モデル細胞株の培養・タンパク質抽出) まず、TNBC 細胞株 MDA-MB 細胞からのタンパク質の抽出を行うため、MDA-MB 細胞をDMEM培地で大量培養し、合計20L の細胞を保存した。次に、タンパク質を抽出するため、0.1% の Triton-X を含む緩衝液を加え可溶化した。また、オルガネラに含まれるタンパク質もできるだけ多く回収するため、超音波粉砕機で細胞を溶解した。その後、遠心分離を行い、上清を回収した。2、(イオン交換カラムによる抽出タンパク質の精製) 抽出タンパク質を精製するため、FPLC (Bio-CAD) に大量精製用の陰イオン交換カラム Hi-Trap HQ カラム (GE ヘルスケア)を接続し、細胞可溶化タンパク質を移動相の溶媒で希釈したタンパク質溶液をカラムに注入した。できるだけ多くのタンパク質を吸着させるため、移動相はpH8.0に合わせ、すべての溶出液を2 mLずつ分画し、回収した。3、(タンパク質画分の脱塩・濃縮) 分画したフラクションを限外ろ過に通して溶液を交換し、脱塩後、10倍濃縮した。濃縮サンプルを活性測定のサンプルとした。4、(HIV TAT タンパク質を利用した細胞へのタンパク質の導入) 分画・濃縮したタンパク質をTATシステムを用いて、エストゲン非依存性乳がん株 HCC38 細胞に導入した。細胞増殖の変化を検証するため、タンパク質導入細胞のミトコンドリア活性の測定を行ったが、有意な変化は認められなかった。
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