マウス表皮を構成する主要な細胞であるケラチノサイトは、細胞外の様々な因子により増殖・分化が厳密に制御され、皮膚表皮のホメオスタシスが維持されている。この皮膚表皮のホメオスタシスにおいて、ケラチノサイトにおけるカルシウムシグナル伝達が果たす重要性は認識されているが、その分子機構はほとんど明らかにされていない。申請者は、近年同定されたストア作動性カルシウム流入制御タンパク質であるSTIM1を皮膚表皮組織におけるCaホメオスタシスの中心分子として捉え、そのノックアウトマウスの解析を通して創傷治癒における皮膚表皮のCaホメオスタシスの重要性の解明を目指している。 今年度は、これまでに取得していた、RNAサンプルを用いて炎症性サイトカインをコードするmRNAの発現変化を解析した。その結果、受傷後8時間および120時間後において、STIM1欠損による発現変化が観察された。創傷治癒には、ケラチノサイト自身の増殖と遊走による創傷部位の再表皮化が必要になる。in vitroにおけるケラチノサイトの増殖および遊走を、scratch assayにより解析したところ、STIM1欠損の与える影響はほとんど見られなかった。以上から、STIM1欠損マウスで見られる創傷治癒の遅延あるいは促進は、ケラチノサイト自身の機能ではなく、ケラチノサイトによるサイトカイン産生を介した間接的なものであることが示唆された。
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