ロタウイルスワクチンは、重症ロタウイルス下痢症の予防にとって有効な手段である。現在、二種類のロタウイルスワクチンが世界の多くの国でその使用が承認されており、ともに先進工業国で高い有効性を示している。しかし、発展途上国での有効性は芳しくない。ベトナムでは5価ロタウイルスワクチンの臨床試験が行われたが、このワクチンは日本をはじめとする先進国で約95%の重症ロタウイルス下痢症予防効果を示しているのに対し、ベトナムではその有効性が64%と低値であった。有効性が低い原因の第一に挙げられるのが、流行している野生株が先進国で流行している野生株と異なる可能性があることである。そこで、本研究では、臨床試験が行われたときに流行していた優勢な野生株であるG1P[8]とG3P[8]の遺伝子型を持つ4株 のロタウイルスの全ゲノム解析を行い、ベトナムでの野生株が先進工業国での野生株とどのように違うのか明らかにすることを目的にした。G1P[8]株の遺伝子型構成はG1 -P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-E1-H1であり、G3[8]株の遺伝子型構成はG3-P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-E1-H1であった。さらに、分子系統樹解析の結果、これらの株は2000年代に検出された現代のWa-like genotype constellationを持つヒトロタウイルスと高い塩基配列一致率を示した。この中には、臨床試験での5価ワクチンの有効性が95%と高かった米国および43%と低かったバングラデッシュも含まれた。これらの結果から、ベトナムで流行しているロタウイルスの野生株は他の先進国および発展途上国で流行している野生株と大きく変わることがないことがわかった。すなわち、発展途上国でのロタウイルスワクチンの有効性が低い原因は流行株の違い以外にあり、その対策が必要である。
|