今回、変形性関節症の病態解明のため、培養滑膜および軟骨細胞を用いたin vitroの実験を行った。培養ヒト軟骨細胞で株あるC28/I2細胞に対して、炎症性サイトカインとして、IL-1およびTNFαをそれぞれ添加して培養を行ったところ、マトリックメタロプロテアーゼであるMMP13の遺伝子発現が有意に増強した。この誘導系に対して、分子量900 kDaの高分子量ヒアルロン酸を添加した実験では、IL-1βによるMMP13の発現誘導に対する影響は観察されない一方で、TNF-αに誘導されるMMP13遺伝子の発現は抑制された。今後、TNF受容体であるTNFR下流のシグナル分子に対する高分子量ヒアルロン酸の影響に関して、解析を行っていく予定である。 一方、慢性炎症への関与が報告されている炎症性サイトカインIL-17は培養滑膜軟骨腫細胞株HS-SY-IIに対して、MMP3遺伝子遺伝子の発現を増強した。免疫蛍光染色の結果、同細胞およびヒト顎関節より分離した滑膜線維芽細胞にはIL-17の主要な受容体であるIL-17RAが発現が確認された。同受容体は軟骨細胞に発現が観察されないことから、IL-17の関節内におけるメインのターゲット細胞は滑膜細胞であることが示唆された。同様の結果が、IL-17RAに対する中和抗体を用いた抑制実験からも得られている。このIL-17による滑膜細胞に対するMMP3の発現誘導の分子メカニズムとして、p38 Mitogen-activated Protein Kinase (MAPK)、Extracellular Signal-regulated Kinase (ERK)および c-jun N-terminal kinase (JNK) を介するシグナル経路の活性化が関与している可能性がwestern blottingの結果から示唆されており、同分子の選択的阻害剤を用いた詳細な分子メカニズムの解析を継続中である。
|