本プロジェクトの最終目標は,総合的歩行機能を定量評価するための有効な手段を確立することである.この目標に向けて本研究では,申請者らが開発した脚運動エントロピー解析法(ELLIS法)の基本コンセプトを検証し,本法による歩行機能評価の理論的根拠を確立するため,〔研究1〕歩行フレキシビリティー低下を検出する能力の検証実験,および〔研究2〕臨床症例における歩行障害改善度の定量評価能力の検証実験が提案された.
平成27年度の研究では,まず前年度までに収集した〔研究1〕の検証実験(健常成人ボランティア女性8名を対象にしたハイヒール装用下歩行動揺モデル実験)のデータを総合的に解析した.その結果,理論上で予測された「動作適応に伴う生理的バリアビリティーの増大」が示され,脚運動エントロピー解析法の基本コンセプトが支持された.一方で,もう一つの重要仮説であった「適応能力の限界による速度依存性変化の減少」を支持するデータは得られず,被験者の体格や歩行機能以外の全身状態の個人差にも影響される歩行速度の影響を排除して計測法を汎用化してゆくための方法論には大きな課題を残すこととなった.また,技術面で期待された「両脚信号の多次元同期解析による精度改善」の効果も確認されなかった.これらの結果により,本法を発展させ臨床実用させてゆくためには,データ解析手法の大幅な改善が必要であると考えている.
〔研究2〕における臨床症例を用いた検証実験では,変形性膝関節症の手術症例11例(人工関節置換術7例,脛骨近位矯正骨切り術4例)から,術前および術後3・6か月の3時点での歩行データ収集が修了した.しかし,上述の理由によりデータ解析手法は現在見直し中であり,研究結果の発表には至っていない.
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