研究課題/領域番号 |
25893224
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
松本 准 国際医療福祉大学, 薬学部, 助手 (60709012)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 分子生物学的研究 / 乳がん / トランスポーター / エストロゲン前駆体 |
研究概要 |
乳がんは、女性罹患率の最も高いがんである。乳がんのうち約2/3 はestrogen receptor(ER)陽性乳がんであり、ER 陽性乳がん患者に対する薬物療法としては、積極的にホルモン療法を行うことが現在の乳がん治療におけるスタンダードとなっている。しかしながら、従来のホルモン療法では効果がない患者は多く、使用薬剤選択に係る新規バイオマーカーの確立、およびより多くの異なる作用点を狙った薬剤の開発が、乳がん患者に対する質の高い医療の提供に繋がることが考えられる。乳がん細胞におけるestrogen源としては、estrone sulfate(E1S)が挙げられる。E1Sは血中に高濃度で存在し、乳がん細胞中でsteroid sulfatase(STS)により加水分解を受けることにより、最終的にはestradiol(E2)へと変換される。E1Sは親水性化合物であり、細胞内への取り込みには何らかのtransporter、特にE1Sに高い輸送活性を有するorganic anion transporting polypeptide(OATP/SLCO)が関与することが考えられる。本研究では、このE1Sの乳がん細胞内への取り込みと、乳がん細胞の増殖との関係性を明らかにすることを目的とし、研究を開始した。 今年度は、主にER陽性乳がん細胞株を用いた基礎的検討を行うとともに、乳がん患者より拾得したがん組織を用いた臨床的検討を同時並行で行った。その中で、ER陽性乳がん細胞におけるOATP2B1の発現は、E1Sの取り込み量を変化させることで、がん細胞の増殖に関わることが示唆された。また、乳がん組織を用いた検討において、SLCO2B1 mRNA発現量と乳がんのグレードやKi-67、およびSTS mRNA発現量との間に有意な正の相関が認められた。以上の結果より、OATP2B1の発現量は、乳がん細胞の増殖に関係することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に計画・実施を予定していた実験は、培養細胞を用いた基礎的検討およびヒト乳房組織を用いた臨床的検討である。 培養細胞における基礎的な検討においては、MCF-7細胞と同様にER陽性乳腺がん由来細胞株として汎用されるT47D細胞を購入し、OATP2B1の過剰発現を試みた。また、ER陽性細胞の中でも比較的予後が悪いとされるluminal B細胞株として知られるBT-474細胞においてE1Sを投与し、細胞増殖能の亢進が認められるかを検討したところ、顕著な差は認められなかった。さらに、HER2陽性乳がん細胞株として知られるMDA-MB-453細胞においても同様の検討を行ったところ、本細胞においても顕著な差は認められなかった。これら2種類の細胞の増殖能がE1Sの添加により亢進されなかった原因として、HER2または他の細胞増殖機構の活性化によるestrogen依存的な細胞増殖機構の抑制が考えられた。また、SLCO2B1遺伝子5’-上流域におけるestrogen responsive elementの存在に関する検討においては、estrogenの添加によりタンパクレベルでOATP2B1の増加が認められないことから、最終的に本機序によりOATP2B1が誘導される可能性は低いことが示唆された。 ヒト乳房組織を用いた検討においては、各がん組織よりtotal RNAを回収し、real-time PCR法によりSLCO2B1 mRNAの発現量を検討するとともに、SLCO2B1mRNA発現量とがんのグレード等の臨床病理学的パラメータ、およびestrogen関連遺伝子の発現との関連性について検討した。その中でSCO2B1 mRNA発現量と乳がんのグレードやKi-67、およびSTS mRNA発現量との間に有意な正の相関が認められた。 総じて、本年度における検討は概ね当初の予定通りに進んでいる。また、本年度に得られた成果は10th International ISSX Meeting(International Society for the Study of Xenobiotics, Canade)において発表を行い、現在Cancer Biol Therに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、培養細胞を用いた基礎的な検討より、ER陽性乳がん細胞におけるOATP2B1の発現はE1Sの取り込み量を変化させることで、がん細胞の増殖に関わることが示唆された。また、ヒト乳房組織を用いた臨床的検討においても、OATP2B1の発現が乳がんのグレード等の臨床病理学的パラメータおよびestrogen関連遺伝子の発現と関連していることが見出された。これらの結果を受け、今後主に行う内容としては当初計画していた通り実験動物を用いた検討を行う予定である。つまり、培養細胞を用いた基礎的検討およびヒト乳房組織を用いた臨床的検討で得られた知見が、実験動物、すなわちin vivoにおいてどのように反映されるかに着目し検討を行う。 まず初めにOATP2B1を過剰発現させた乳がんモデルマウスを構築する必要があるが、これは乳がんに対する新規薬剤の開発の際に汎用されているマトリクスゲルを用いた方法で行う。構築したマウスに対してE1SまたはOATPの阻害剤であるbromsulphthalein(BSP)を長期投与後、腫瘍径に変化が認められるかを検討することで、E1Sの取り込みが乳がん細胞の増殖に関与するかをin vivoで確認する。また、今年度特に着目する項目としては、乳がん細胞におけるE1Sの取り込みと乳がん細胞の悪性化に関する検討である。現在までに得られている結果として、ER陽性乳がん細胞におけるOATP2B1の発現はluminal subtypeに関与する可能性が認められている。Luminal Aと比較しluminal BにおいてはERおよびER関連遺伝子の発現が低下していることが知られており、今年度はE1Sを長期投与した乳がんモデルマウスより摘出した腫瘍におけるこれらの遺伝子発現を検討することで、OATP2B1とluminal subtypeとの関連性を探る。最終的に、前年度および今年度に培養細胞・実験動物・ヒト組織より得られた知見を総括させ、OATP2B1が新規乳がんに対する創薬ターゲットおよびバイオマーカーとなり得るかを考察する。
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