本年度はアトピー白内障患者前嚢と対照眼の前嚢からRNAを抽出し、網羅的遺伝子発現解析を施行し、その結果得られたアトピー白内障関連遺伝子Xの機能解析を施行した。(1)アトピー白内障患者前嚢サンプルの網羅的遺伝子発現解析。アトピー白内障患者の手術施行時に得た前嚢サンプルから、RNAを抽出する方法を確立した。すなわちアトピー白内障患者由来の水晶体前嚢は高度に繊維化しており、その中にEMT現象によって線維芽細胞様に変化した水晶体上皮細胞が埋没しているため、RNAの抽出は困難を極めた。核酸抽出前にProteinase Kで前処理することによって、効率よくRNAを得ることが可能になった。また、網羅的遺伝子解析をするために十分なRNA量を得るためアレイへのハイブリダイズ前に核酸の増幅を施行する等の工夫をおこない、網羅的遺伝子発現解析に成功した。 (2)上記の結果からアトピー白内障組織において有意に発現が亢進している遺伝子X(脂質代謝関連遺伝子)を同定した。まず、既に採取してあったアトピー白内障組織由来のcDNAサンプルにおいて、発現上昇の再現性を確認した。さらに免疫組織染色法にて遺伝子Xがコードするタンパクがアトピー白内障組織の前嚢における瘢痕化部位に発現していることを確認した。また、培養ヒト水晶体上皮細胞に遺伝子Xを過剰発現させる実験系を確立した。今後遺伝子Xの過剰発現による表現型を解析し、学会発表のあと、論文にまとめる予定である。
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