過重労働のストレスによるうつ病や自殺が、最近大きな社会問題となっている。この問題の解決の糸口として、過重労働によってもたらされる疲労の分子機構の解明は非常に重要であると考えられる。しかし、疲労の原因物質が同定されていないため分子機構は不明な点が多く、脳機能や精神疾患への影響も解明されていない。 本研究では、疲労によるヘルペスウイルスの再活性化という現象を手がかりに、疲労の原因となる分子(疲労関連分子)の候補を検索し、マウスへの導入実験により候補分子の疲労との関連を検証することを目的としている。昨年度の研究により、疲労負荷前後で変化する因子を幾つか特定しており、本年度はこれらの因子が機能するメカニズムの解明を目標とした。その一つの方法として、特定した因子が直接疲労に関与するかどうかを確認するために、マウスにin vivoトランスフェクションを行った結果、自発運動の低下が確認された。さらに、この疲労関連因子をin vivoトランスフェクションしたマウスでは、多くの疲労研究のターゲットとされている炎症性サイトカインの上昇が観察されなかった。また、運動疲労(強制水泳)と不眠疲労の比較を行ったところ、不眠疲労では疲労因子の長期活性化が見られたのに対して、運動疲労では疲労因子の活性が直ぐに抑制されていた。この結果から、運動疲労は疲労回復因子が強く機能するのに対して、不眠疲労は疲労回復因子が機能しないため、疲労が蓄積すると考えられる。疲労の蓄積である疲労因子の活性持続が脳機能や精神疾患に与える影響の解明は今後の課題である。
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