クリティカルケア領域では、セーフティマネージメントの観点から「必要悪」として行われている身体抑制について、ベテラン看護師の看護の実践プロセスを明らかにすることで、看護師の経験の持ち方に影響を与えることができると考え、10名の看護師に半構造的面接を行い、質的に分析した。 ベテラン看護師の看護実践プロセスの特徴は、それまでの経過と今後の予測の幅広い分析から今の患者を捉え、皮膚の内側に入り込み患者の思いを察知し、それに応えるケアが行われていた。抑制による二次障害予防や心身の苦痛を緩和しながら、看護の方向性は、常に病状の回復でもある抑制解除へと定まっていた。後輩に対してはロールモデルとして行動を選択し、リーダーの時は全体を考え安全を最優先し、病棟全体の看護の責任を持つ当事者としての行動をとっていた。 家族に対する看護実践プロセスは、まず家族の思いを推測し、家族のショックを吸収することを行っていた。次に抑制について理解を促すことに重きを置き、だんだんとケアへの巻き込みを進め、家族が“尻込み”から“前向き”になれるよう支援的に関わっていた。その実践プロセスに通底するものは、抑制を受け入れざるを得ない家族の理解と「抑制しといてください」と言う家族の言葉に甘えないという貫く信念であった。患者の不安の軽減や闘病意欲の維持のために家族サポートを取り込みながら、同時に家族が患者の回復に役立てているという実感から、さらに自信へとつながるように働きかけ、患者と家族の相互作用を促進させていた。 ベテラン看護師の「抑制解除」の臨床判断には、「視線」「目つき」「笑顔」「頷きや手を握り返すタイミング」など、個々の看護師の格率に導かれた患者の認識の捉え方があった。 今後は、より多くの格率から確からしい臨床判断を明らかにしていきたい。
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