研究概要 |
薬剤性肝障害は、医療現場でしばしば問題となる有害事象である。しかしながら、明確な診断基準や被疑薬の投薬中止基準がないため、現場の医師は投薬による治療効果と有害事象のバランスから投薬中止のタイミングを図るのに難渋している。そこで、本研究では、基礎研究と臨床研究が連携することにより、細胞、動物、該当患者の診療情報を用いて、薬剤性肝障害を発症した際にその薬物の投与を中止するか否かの投薬基準を確立することを試みることとした。 対象薬物は、ランソプラゾールおよびフェニトインとした。2013年度は、細胞を用いた実験と患者診療録の調査を実施する計画を立てていた。細胞を用いた実験では次年度に向けて条件検討を行った。患者カルテ調査では、対象薬物を投与された患者の診療録より薬剤性肝障害が疑われる症例を調査した。比較的発症頻度の高い重症部門の入院患者に絞って調査を進め、該当患者における薬物投与歴やAST, ALTなどの肝臓からの逸脱酵素をはじめとした臨床検査値の推移を調査した。ランソプラゾールによる薬剤性肝障害が疑われた患者において、投与直後からの逸脱酵素の上昇プロファイルは、症例により様々であった。投与中止後、逸脱酵素の値は、比較的速やかに減少し、ほとんどの症例で遅くとも一週間以内には半減したが、正常値までの低下が遷延している症例も見られた。フェニトインによる薬剤性肝障害が疑われる患者はいたが、てんかんコントロールの必要性から投与が継続されていたケースが見られた。以上より、患者における薬剤性肝障害の現状把握ができた。今後、細胞や動物実験の結果と併せて、臨床検査値と肝機能への影響との関係を評価する必要があると考える。
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