薬剤性肝障害は、臨床現場でしばしば問題となる。明確な診断基準や投薬中止基準がないため、血中肝逸脱酵素活性や治療効果を考慮し、投薬中止のタイミングを図るのに難渋している。本研究では、臨床研究と基礎研究において、薬剤性肝障害発症時の投薬中止基準を確立するための基礎的検討を行うこととした。 まず、フェニトインによる薬剤性肝障害が疑われた患者において、診療情報の後ろ向き調査を行ったところ、多くの場合、血中ALT値、AST値は投薬中止後7~14日以内に正常値にまで改善した。しかし、中止時の血中ALT値が200 IU/Lを超える場合、正常値に戻るまでの日数が遷延する傾向にあった。血中フェニトイン濃度が基準値上限を超える症例はほとんどなかった。次に、マウスを用いて肝逸脱酵素活性と肝機能について検討した。高用量フェニトインの繰り返し投与で血中ALT値の上昇が認められたが、基準値から大幅に逸脱するレベルではなく、投与中止により速やかに低下した。肝機能の指標としての血中総タンパク量やコリンエステラーゼ活性はほとんど変化しなかった。さらに、フェニトインによるより著しい肝障害を示すブチオニンスルホキシミンを併用したモデルを用いて同様に検討したところ、比較的投与開始早期から血中ALT値の上昇が認められ、同時に血中総タンパク量やコリンエステラーゼ活性の低下を認めた。また、同じ血中ALT値でも、それまでの血中ALT値の推移の違いなどにより、肝機能への影響が異なる可能性も見出した。以上より、血中肝逸脱酵素活性と肝機能は必ずしも相関せず、肝機能を考慮した投薬中止基準を確立する必要性が示唆された。
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