研究課題/領域番号 |
25893278
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
名波 正義 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (30412034)
|
研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
キーワード | 糖尿病性腎症 / 腎尿細管・間質線維化 / 細胞内鉄代謝 / 上皮間葉形質転換 |
研究概要 |
慢性腎臓病における尿細管・間質の線維化は末期腎不全に至る過程での最終共通経路であり、腎予後とも非常に強く相関している。従来、糖尿病性腎症(DN)の尿細管・間質病変は糸球体病変に続発した二次性病変であると考えられていたが、最近では糸球体病変とは独立し、高血糖に関連した病態により惹起されるとの見解が得られている。また近年、糖尿病発症およびその合併症の進行に細胞内鉄代謝が深く関与することが示されている。また一方で、DNの腎予後を左右する尿細管・間質線維化の発症誘因となる上皮間葉形質転換(Epithelial-Mesenchymal Transition: EMT)についても細胞内鉄代謝が影響を及ぼすことが明らかにされている。尿細管、特にミトコンドリアが濃密に保たれる近位尿細管は、高血糖環境下ではミトコンドリア電子伝達系を介したReactive oxygen species(ROS)産生が亢進した状態にあり、DNにおける尿細管障害過程に深く関与している可能性が示唆される。本研究では、高濃度ブドウ糖の近位尿細管への流入によってもたらされるROS産生が鉄輸送蛋白の発現に影響を与え細胞内鉄過剰状態を誘導し、Haber-Weiss反応・Fenton反応を介した酸化ストレスの増幅によりEMTを促進しているとの仮説を立て、DNにおける尿細管・間質線維化過程での細胞内鉄代謝異常の関与について、DNモデルマウスを用いて検証することを目的とし、さらに鉄制御の観点から、臨床的に速やかに実現し得る新しい治療手段の確立を目指す。 平成25年度は、DNモデルであるdb/dbマウスの心筋、腎皮質、網内系において、種々の鉄輸送蛋白発現変化が起こっていることを認め、細胞内鉄輸送調節障害が存在することを明らかにした。次年度(平成26年度)はdb/dbマウスの単離近位尿細管を用いた検討を中心に研究計画を推進する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究過程において、①予備検討、②尿細管単離技術習得に時間を費やしたことが当初の計画より遅れた主な理由である。 ①予備検討: DNにおける細胞内代謝異常の存在を検証するため、DNモデルであるdb/dbマウスの様々な組織において、鉄取り込み蛋白であるtransferrin receptor (TfR)、divalent metal transporter 1 (DMT1)、鉄汲み出し蛋白であるferroportin 1 (FP1)といった鉄輸送蛋白のmRNAレベルでの発現変化を解析した。その結果、網内系のみならず、心筋、腎皮質において、特に鉄取り込み蛋白の著しい発現亢進を認めた。更にミトコンドリア鉄シャペロン蛋白として重要な機能を担うFrataxinにも発現変化が認められた。 このように予備検討の段階で、鉄輸送蛋白発現を腎・尿細管以外の複数の組織で解析したこと、ミトコンドリア鉄代謝に関する解析を行ったことなど、当初予定していた計画よりも多岐にわたる検討をおこなったため、計画の遅れにつながった。しかしながら、本研究を進展させる上で貴重な知見が得られた。 ②尿細管単離技術: 本研究の予備段階で、すでに尿細管単離技術については習熟していたが、mRNAあるいは蛋白解析を行うにあたり、相当量の採取が必要になる。また、同解析においては、採取にかかる時間が、結果に影響を及ぼす要因となる。このようなことから、短時間で相当量の尿細管を単離するために、技術の改善・向上に時間を要した。この技術的向上により、再現性、安定性の高い実験結果が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
①「DNにおける近位尿細管での細胞内鉄代謝異常の検証」 a)鉄輸送蛋白解析:これまでの検討結果から、DN近位尿細管において鉄取り込み蛋白であるtransferrin receptor (TfR)、divalent metal transporter 1 (DMT1)の発現が亢進し、鉄汲み出し蛋白であるferroportin 1 (FP1)の発現が抑制されていることが想定され、この発現変化をmRNA、蛋白レベルで検証する。b)鉄輸送蛋白の発現変化のメカニズムに関する検討:細胞内鉄輸送蛋白は、mRNAの非翻訳領域に存在するiron responsive element (IRE) とiron regulatory protein (IRP) の結合を介して翻訳レベルで調節されている。IRP-IRE結合により、TfR、DMT1mRNAは安定化し、一方FP1mRNAは分解する。DN近位尿細管でのROS産生がIRP-IRE結合を促進することが示唆され、この結合変化を解析する。c)近位尿細管鉄含有量分析:DN近位尿細管での鉄過剰状態の存在を、エネルギー分散型蛍光X線分析を用いて検証する。 ②「細胞内鉄代謝異常とEMT促進との関係を検証」 a)鉄の取り込み・放出の検討:本検討では培養近位尿細管細胞を用い、高濃度グルコース条件下での鉄輸送蛋白発現異常に伴う細胞内鉄輸送変化について59Feを用いた実験系により検証する。b)・OH産生量の測定:細胞内鉄過剰状態に伴う・OH産生亢進についてサリチル酸トラップ法を用い検証する。c)細胞内鉄蓄積のEMTへの影響:細胞内鉄過剰がEMTに及ぼす影響を上皮・間葉系マーカーの発現解析により評価する。d)シグナル伝達経路の解析: 細胞内鉄過剰による酸化ストレス増幅がmitogen-activated protein kinase (MAPK)系シグナル伝達経路を活性化することによりEMTを促進する可能性が示唆され、これを検証する。 ③「鉄制御によるEMT抑制効果、腎保護効果の検討」 鉄制限食、鉄キレートによるEMT抑制効果、腎保護作用を検討する。
|