慢性腎臓病(CKD)における尿細管・間質障害は末期腎不全に至る過程での最終共通経路であり、腎予後と強く相関している。従来、糖尿病性腎症(DN)の尿細管・間質病変は糸球体病変に続発した病変と考えられていたが、糸球体病変とは独立した病態により惹起されるとの見解が得られている。糖尿病環境下において、グルコース再吸収を担い、ミトコンドリアが濃密に保たれる近位尿細管でのReactive oxygen species(ROS)産生の亢進がこの病態に深く関与している。 近年、CKDにおいて、尿細管での鉄輸送調節障害の存在および尿細管・間質病変との関連性が示されている。DNの近位尿細管では、このような細胞内鉄代謝異常が酸化ストレスの増幅を介し、尿細管障害の重要な促進因子となっている可能性が示唆される。本研究では、DNでの尿細管障害進行過程における近位尿細管細胞内鉄代謝異常の関与を検証するとともに、その機序を解明することを目的とする。 DNモデルであるdb/dbマウスの単離近位尿細管において、鉄輸送蛋白発現を解析したところ、鉄取り込み蛋白であるtransferrin receptor (TfR)、divalent metal transporter1(DMT1)のmRNA発現亢進が認められた。さらにミトコンドリア鉄シャペロン蛋白として重要な機能を担うFrataxin(FTX)のmRNA発現抑制とミトコンドリア酸化ストレス制御機構の中心的役割を果たすManganese Superoxide dismutase(Mn-SOD)活性の低下が認められた。これらの結果から、DNでの近位尿細管において、細胞内鉄輸送異常とミトコンドリアでの鉄代謝調節障害および酸化ストレス制御異常が起こっていることが示唆された。
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