研究実績の概要 |
突発性難聴などウイルス感染症の関与が示唆される内耳性難聴の病態はいまだ明らかではなく、ゆえに決定的な治療法もない。内耳はこれまで免疫租界とされてきたが、我々はマウス蝸牛感覚上皮の器官培養系を用いて、ウイルス感染に対し、支持細胞であるヘンゼン細胞・クラウディウス細胞において自然免疫を司る分子であるretinoic acid inducible gene-I (RIG-I), melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5), interferon regulatory factor 3 (IRF3)を介して、I型interferon (IFN)の発現が誘導されることを突き止めた。 この結果を受け、本研究ではウイルス感染時に支持細胞において発現が誘導されるIFNが蝸牛感覚上皮に及ぼす影響について検討を行った。 IFNは分泌された後、周囲の細胞の細胞膜に発現するIFN受容体に結合してJAK-STAT経路を活性化、さらにウイルスゲノムの複製を阻害するRNaseLを活性化して抗ウイルス作用を発揮する。この事実よりまずIFNがウイルス感染から有毛細胞を保護しているか否か検討するために、IFNの受容体であるIFNAR1の発現パターンを検討し、さらにIFNAR1ノックアウトマウスの蝸牛感覚上皮を用いて有毛細胞にウイルス感染が生じるか否か検討を行った。 また逆に、IFN刺激によりp53依存性のapoptosisの増強が見出されていることから、IFNが有毛細胞を障害する可能性についても検討を行った。ウイルス感染させた蝸牛感覚上皮よりRNAを抽出し、RT-PCR法にてapoptosis関連遺伝子の発現量の増加が見られるか否か検討した。 本研究により突発性難聴などの病態の一端が明らかとなり、新たな治療法の確立へとつながることが期待される。
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