研究概要 |
腫瘍マーカーとして用いられているCA19-9は、I型糖鎖抗原に属するシアリルLeaである。日本人の約10%はルイスA (Lea)糖鎖を合成するフコシル化酵素(ルイス酵素、FUT3, Le)の欠損者(Le陰性者)であり、ルイス糖鎖もシアリルルイスA糖鎖も合成できない。このため、ルイス式血液型Le (a-b-)型の患者ではCA19-9は感度以下(ほとんどゼロ)であることが教科書にも記載されている。しかしながら、過去にCA19-9がほぼゼロであったにもかかわらず、発癌によって10U/mlを越えて上昇してきた症例を経験し、原因を追求した結果、分泌酵素(FUT2, Se)遺伝子の共通した多型によることが判明した(Hamada et al. 2012)。本研究ではこの特徴が普遍的かどうかを検討するとともに、CA19-9の上昇の度合いという表現型とルイス酵素・分泌酵素の遺伝型との関係を調べた。 ルイス酵素・分泌酵素がいずれも変異型のホモ接合体の群、ルイス酵素はホモ・分泌酵素はヘテロか野生型の群はいずれも元来CA19-9がほぼゼロであったが、後者は他の腫瘍マーカーが上昇してもCA19-9は上昇せず、一方前者はCA19-9がわずかに上昇するに至った。この原因は、遺伝学的には分泌酵素活性を有するかどうかということと、生物学的には癌がいかに増大していたかに因ると推察された。 一方、CEAが極端な上昇を示したにもかかわらず、DUPAN-2もCA19-9も上昇が軽微な症例を見出したので遺伝子型を検索したところ、分泌酵素は野生型で、ルイス酵素がヘテロ接合体であったため、癌の増大にも関わらずCA19-9もDUPAN-2もその合成が進まなかったと推測された。以上から、癌化におけるCA19-9の上昇は、分泌型酵素活性が大きな役割を示していると考えられた。
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