研究実績の概要 |
2011年東北地方太平洋沖地震で発生したのと同様なプレート境界断層浅部すべりイベントの過去の時空間分布と, すべり域における断層のすべり特性を解明するために, 日本海溝軸近傍の深海域において高分解能地震波探査, 海底堆積物調査, 海底地震・地殻変動長期観測に着手した. 今年度は, 日本海溝北部での探査と中部における堆積物調査と地震・地殻変動観測の実施を計画じていた. 地震探査の結果, プレート境界断層の最浅部の地質構造は日本海溝沿いに顕著な変化を示し, 沈み込む側の太平洋プレート側の地質構造の変化と良い相関があることが明らかとなった. これは, 断層浅部における挙動が空間変化する可能性を示唆し, 重要な発見である. 堆積物調査は, 日本海溝南部から北部までの広範囲で実施でき, 計画より大きく進展した, 広域に試料の対比ができたことにより, 海底堆積物中に過去の巨大地震の痕跡が残されていることを明瞭に示すことができた. さらに, 残留磁化に注目した年代決定法により, すべりイベントに関連する堆積物の堆積年代を高精度で決定できることが示された. 海底長期観測では, 従来にない高密度の地震計アレイを用いた観測に着手した. 一方, 海溝軸を挟んだ音響測距連続観測の予備観測を進め, 水深7,000m・基線長7kmという世界でも前例のない観測に成功した. 大深度海底の安定した水温環境の下, 低雑音の記録を得ることに成功し, プレート運動に伴う基線長の変化の速度は, 断層浅部で定常すべりが発生していると仮定した場合に比べ, 有意に小さいという予備的な結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高分解能地震波探査と海底地震観測については, 当初計画通り順調に探査・観測が実施されている. 一方で, 海底堆積物調査と海底間音響測距観測では, 顕著な成果が上がりつつある. 堆積物調査では, 担当分担者(金松)の研究グループが多くの調査航海日数の獲得に成功し, この機会を活用して日本海溝沿いの広域で高品位の深海堆積物試料を得ることができた. 大量の試料の分析にはまだ時間がかかるが, 短時間に広域の試料が得られたことから, 高い信頼度ですべりイベント起因の堆積物の対比が可能となり, 深海堆積物調査にもとづいて, 過去の浅部すべりイベントの履歴に迫ることの有効性が早くも実証された. また, 海底間音響測距の予備観測も, 今年度は機材の性能評価のフェイズと位置づけていたが, 想定より高品位のデータが取得でき, 2011年に浅部すべりが発生した断層が再び固着をとりもどしつつあることを示唆する重要な知見が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
日本海溝・千島海溝沿いの広い海域での地震探査および堆積物調査を, 対象海域を移しながら進めていく方針に大きな変更はないが, 年度毎の対象海域の選定にあたっては, それまでの進捗と成果を踏まえて, 柔軟に対応することにしている. 平成27年度の高分解能地震波探査は, 平成26年度に海底堆積物調査を実施することができた日本海溝南部に重点をおいた探査を実施し, 28年度以降に千島海溝にまで探査領域を拡大させる. 一方で, 平成26年度の地震波探査によって, 海溝軸に沿って顕著な地質構造の違いが, 日本海溝中部~北部に認められたことから, こうした変化と過去の浅部すべりイベントの発生履歴の関係の解明を目的として, 平成27年度の海底堆積物調査では, この日本海溝中部・北部に重点をおいて実施する. 平成28年度以降についても, 構造探査で明らかになる地質構造上の特徴との対比に着目して優先順位をつけた上で, 調査海域を順次拡大し北海道沖の千島海溝から日本海溝全域に拡大して, 浅部すべりイベントの時空間履歴を明らかにする. このようにして, 海溝軸付近での地質構造と過去の浅部すべりイベントの発生履歴(活動度)の対応を解明することによって, 浅部すべりを促進・抑制する機構の推定を図る. 海底地震・地殻変動長期観測は, 2011年に大規模浅部すべりが発生した日本海溝中部を最重要拠点として, 機材の準備が整い次第観測体制の整備を進めている. 平成27年度には, 海底地震計・圧力計の回収・再設置を実施し, 観測を継続しつつ, データ解析に着手する. これらの観測機材の記録から, 通常の地震のほか, 断層のゆっくりすべりイベントに関連する低周波微動などの信号の抽出を試み, プレート境界浅部における小規模すべりイベントの活動に関する解析を行う. さらに, 海底圧力観測と海底間音響測距の長期連続観測を開始する, 観測は平成30年度まで継続するが, 音響通信などにより1年間隔以上の頻度でデータの収集を行い, 解析・研究に資する. 地震探査・堆積物調査から明らかにされる, プレート境界浅部の構造や活動履歴の海溝軸沿いの違いに対応した, 現在の断層の活動様態を明らかにすることを目的として, 上記の重点観測域と同等仕様の観測を, 別海域で行うことにより, 現世における断層挙動の違いと, 地質探査と堆積物調査の結果をもとに明らかにされる過去の大規模浅部すべりの活動度の違いとの対応関係を明らかにする. 比較観測の海域選定にあっては, 探査・調査の結果のフィードバックが不可欠で, 1896年明治三陸津波地震が発生した日本海溝北部域を候補として, 平成28年度観測開始を目標として, 観測点配置の検討を進めている. 以上を総合することで, 浅部すべりイベントの活動履歴を規定する, 地質構造の特徴とプレート境界断層のすべり特性の解明を図る. その際には, プレート境界断層全体の地震発生サイクルを再現する数値シミュレーションが有効であり, 本研究の探査・調査・観測の成果を再現することによって, 大規模浅部すべりイベントの発生機構や, その海陸プレート間相互作用のなかでの役割の解明を目指す.
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