研究実績の概要 |
日本海溝と同様に海溝軸近傍の陸側斜面最下部の地質構造に海溝に沿う方向の顕著な変化が, 千島海溝でも見られることが分かった. 岩手県沖で得られた堆積物試料の高精度年代測定から約4,000年前までの間の地震性乱流堆積層の堆積年代が推定され, 長期にわたる大地震の発生履歴が明らかになりつつある. 2011年以後プレート境界浅部で余効すべりが進行している日本海溝南部においては, 海底地震観測により低周波微動が検知され, スロースリップイベントが短い時間間隔で繰り返し発生していることが示唆された. この海域の海溝軸を挟んだ基線長はわずかながら短縮を示し, 非地震性すべりが海溝軸近傍に到達している可能性がある. 5年間に実施した深海底における調査観測の結果, 2011年に大規模なプレート境界浅部すべりが発生した日本海溝中部では, 共通の特徴を有する変形地質構造が海溝軸付近に認められる. こうした変形構造が見られる範囲に, 869年と1454年に発生した巨大地震による乱流堆積層が分布することから, 2011年と同様な大規模浅部すべりが日本海溝中部でのみ繰り返し発生してきた可能性が高い. こうした巨大浅部すべりの範囲内では2011年の地震発生直前以外にはゆっくりすべりの発生が認められないのに対して, その北側と南側では活発なゆっくりすべりの活動が現在も進行しており, プレート境界浅部における摩擦特性が大きく異なることを示唆する. すべりの様式が異なる日本海溝沿いの南・中・北部の3領域に対応して, プレート境界面沿いの地殻構造(地震波速度および密度)にも違いがあることから, 断層沿いの物性の不均質に規定されて摩擦特性が海溝に沿って変化するために, 巨大浅部すべりの発生可能範囲が中部域に限定されていると考えられる.
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