研究課題/領域番号 |
26000003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中畑 雅行 東京大学, 宇宙線研究所, 教授
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研究期間 (年度) |
2014 – 2018
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キーワード | ニュートリノ / 超新星爆発 |
研究実績の概要 |
スーパーカミオカンデ(SK)の純水にガドリニウム(Gd)を溶解し、ニュートリノ反応によって発生する中性子をGdの捕獲ガンマ線生成反応によって捉えることが本研究の目的である。それによって、反電子ニュートリノによる逆ベータ崩壊反応をバックグランドと区別して捉えることができるようになり、超新星背景ニュートリノの世界初観測が可能となる。超新星背景ニュートリノは宇宙の初めから宇宙のいたるところで起きてきた超新星爆発からのニュートリノであり、それを捉えることによって宇宙の物質生成の歴史を探ることができる。本年度は、(1)純度の高い硫酸ガドリニウムを開発し、GdをSKタンク内の導入してもウラン系列、トリウム系列のバックグラウンドが増えることがないようにすること、(2)SKタンクの止水補強工事に向けて詳細な工程の検討、(3)SKタンク内の高湿度下でも十分な接着能力をもつ止水材料の開発、(4)SKタンクにGdを溶かした後に何らかの理由によりGdを回収する必要が生じた場合に備えて樹脂を用いたGd回収装置の開発、をおこなった。(1)については太陽ニュートリノ観測が最も厳しいバックグラウンドレベルを要求するが、Gd精製業者と純化方法の詳細な検討をおこなった結果、放射性物質の含有量が極めて少ないGd化合物の精製に成功した。試験的に精製したGdをゲルマニウム検出器やICP/MS質量分析器によって測定した結果、要求を満たすGd化合物であることが示された。(2)の結果、平成30年6月1日に始まり、9月末に施工が完了できる工程表を作成した。(3)についてはポリウレア基剤に混ぜる硬化用シリカ量の調整、プライマーを塗ってから止水材を塗るまでの時間の調整を行うことによって高湿度下でも十分な接着能力を持つ材料を開発できた。(4)については陽イオン交換樹脂を入れた容器を準備し、処理後のGd濃度が0.5ppb以下まで下げられるシステムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、平成28年度までにSKタンクを開けて止水補強工事を行い、平成29年度には硫酸ガドリニウムを溶かし始める予定であったが、SKを遠隔装置として使用している長基線加速器ニュートリノ実験(T2K実験)が海外の競合実験と競争関係にあること、止水補強工事に使用する止水材料の確認試験に時間を要してしまったこと、放射性物質の含有量が極めて少ないGd化合物の開発に予想以上の時間を要してしまったことにより遅れが生じてしまった。平成29年6月にT2K実験グループと「平成30年6月1日から9月末までSKタンクを開けて止水補強作業をおこない、10月初めから12月中旬にかけて超純水を給水すること」で合意が得られ、その準備を進めている。純水給水後、止水補強が予定通り完了したことを確認した後、ガドリニウムを溶解できる。当初の予定より遅れているが、観測開始に向けて着実に準備を進めており、やや遅れていると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
「10. 現在までの進捗状況」にも記したように、平成30年6月1日から9月末までの4か月間にSKタンクの止水補強工事を行う。(Gdには環境基準、排水基準など法的な規制はないが、重金属の一種であり、環境中にもあまり存在しない元素であるため、地震などの災害が生じてもGdが環境中に出てしまうことがないように安全管理を施してから使用する必要があるためである。)止水補強工事後、10月初めから12月中旬にかけて超純水の給水をおこなう。今回の給水ではタンクに溜まっていく水を循環させながら満たしていく予定であり、12月に満水になる時には既に十分ニュートリノ観測に利用できるような純水クオリティーを達成させる予定である。その後、T2K実験のための運転期間(数か月と思われる)を経て、平成31年にまず純水をGd循環装置を通して流し、十分な透過率を維持できることを確認する。(ちなみにT2K実験のための運転期間中はSKに元々から使用されている超純水循環装置を使用する。)その後、溶解装置/前処理装置を通してGdを導入していく。平成31年の詳細なスケジュールはT2K実験グループとの議論が必要であり、それは平成30年5月に開かれる共同研究者ミーティングで議論し決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を進めるために必要なスーパーカミオカンデタンクの止水補強工事を行うのが、次年度の平成30年に延びてしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
スーパーカミオカンデタンクの止水補強工事をおこなった後、元の透明度の高い純水に戻すためには給水期間中にタンク水を汲み上げて純化する水回収装置が必要である。また、この装置はガドリニウムを溶解した後にはガドリニウムを含んだ水を回収するための装置としても機能する。水回収装置は、タンクの4か所に井戸型の水中ポンプ(それぞれは15トン毎時で汲み上げる能力を持つ)とポンプを垂直に保ちタンク内のいろいろな深さから水を汲み上げられる機能をもつガイドパイプからなる。これらの装置の購入、設置のために使用する。
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